チェンジング・セイム

現実と非現実。
この境界線はほんの些細なことで崩れる。


………らしい。





それはいつもより少しだけ怠い朝。
昨日の事件(未解決)での戦闘が後を引いているようだった。
目覚まし時計のアラームが職務を全うし終える直前に、ようやく重い瞼が開く。
無機質な天井はいつもどおり。
んーっ、と伸びをしたrが見えた瞬間に違和感が胸に広がった。しかしその正体が掴めないまま身体を起こし、シャワーを浴びるべくパジャマ代わりのTシャツを脱ぎ捨てる。
そしてトランクスに手をかけたその時、視界に入ったモノに硬直した。
フリーズした脳がどうにか復活するまでに約2分。オイルの切れたロボットのように、ぎこちなくその物体に触れる。

ふに…、ふにふに、…きゅ

「…んっ」
微かな痺れが走る。
小振りだが確かな柔らかさが指先に伝わり、ソレが本物であることを主張した。そしてふと思い至り、ガバッとトランクスの中に手を突っ込んでもぞもぞと動かす。
「な、な、な………ない…。オレの…オレの………」

その直後、赤座伴番の部屋から悲鳴が上がった。



その頃、地球署最高責任者であるドギー・クルーガーは今日も寝ぼすけSPD達を起こして回っていた。
残るはバンのみ。少々浮足立つ心を抑えつつ部屋の前に立ったその時。
「うわぁあぁぁッ」
響き渡る叫び声はどう聞いても女性のもの。一瞬部屋を間違えたかと思ったが、ドアにはしっかり『BANBAN.A』と記されている。
(なぜバンの部屋に女性がいるっ!)
…多少問題はずれているが異常事態には変わりない。
「おい、どうした!」
ドアを叩いても中からは女性の切羽詰まった「開けないでください!」の一点張り。
ことバンに関しては狭量なドギーはようやく自分がマスターキーを持っていることを思い出し、カードリーダーに通す。
シュイン…
微かな音をたて開かれた扉の向こうには。
「開けないでくださいって言ったじゃないッスかーッ!」
素肌の背中を向け、真っ赤な顔だけを振り返らせた女性が一人。この部屋の主であるバンの姿はなかった。
しかし今はそれどころではない。

バンの部屋に裸の女性…。
バンの部屋に裸の女性…。

それだけが頭の中をぐるぐる回る。
「出てってください、ボス!」
少しハスキーな、しかしよく響く声に我に返った。ここで彼を『ボス』と呼ぶのは署員だけである。見覚えのない彼女がそう呼ぶはずもなく…。
うずくまったままの彼女にドギーは近付き、間近で覗き込む。
少し垂れ気味の潤んだ綺麗な二重、通った鼻筋、紅く色づいた突き出された唇、うなじのホクロ…。
「もしかして…バン、か?」
「そうですよ!もぉ、いいから出てってくださいってば!」
脱ぎ捨てたTシャツはドギーの後ろに落ちていた。手を伸ばせば届くかもしれないが、隠しているモノが見えてしまいそうで伸ばせない。
「…どうしたんだ、何が一体…」
ボー然とした声が間近で聞こえたと思った瞬間、ガシッて肩を掴まれ身体を起こされた。
じーっと注がれる視線が恥ずかしくて身体を捩るがびくともせず、バンは早くも抵抗を諦めた。
腕の間から見える膨らみ…。
脳が状況を把握する前に動いた身体は、無意識に胸へと手を這わせ、隠す腕をどけた。
「なに…っ、ひゃぁッ、あッ、んんっ」
「…本物、か」
「…ッ、わかったら止めてくださいよ!」
モミモミ揉みしだく手を払いのけ、赤面したバンはドギーの後ろに落ちていたTシャツを着込む。そして警戒もあらわにドギーを睨みつけた。
かくいうドギーはと言えば感触を確かめるように、まだ手を見つめワキワキさせたまま。
「…ボスのヘンタイ…」
「な…っ、俺はそんな…っ、いや……すまん」
ここで素直に謝るから憎めないんだよな、とバンは溜め息を零す。
「で、どうしましょう」
整った顔に困惑の色を滲ませ、小首を傾げて見上げるバン。理性の堤防が決壊しそうな予感にドギーは慌て、内線でスワンに「至急精密検査の準備をしてくれ」と伝えると、ガバッとバンを横抱きに抱えて部屋を飛び出した。
「ボスぅ、自分で走れますってばーッ!」



― 続く





禁断の女性化ネタです。果たして終わるんでしょうかね、このネタ。
本当にバンちゃんのうなじにホクロがあるのかは知らないのでツッコまないでください;

2005.09.02 朝比奈朋絵











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