チェンジング・セイム 2
「結果は…そうねぇ来週かしら」 「えー、そんなにかかるんスか?」 検査着から制服に着替え(ドギーが持ってきた)バンは唇を尖らせた。その癖がやはり目の前の女性がバンであることをしらしめる。 溜め息をつきつつ、制服の袖を捲っているとスワンが笑みを浮かべたままポンと手を叩いた。 「そうだ、バン。制服作らなきゃいけないわね」 「へ? 制服?」 今着ているので充分だと主張するも聞き入れてもらえず、いつの間にかメジャーを取り出したスワンがにじり寄ってきた。 「警察官なんだもの、だらしない恰好はマズイわよぉ」 「そうだぞ、バン。犯人との格闘に動きづらい服装は命取りになる」 もっともらしい理由を述べているが、ドギーの脳内ではすでに女性署員用制服を身に纏ったバンがいたりする。男はコスプレに弱いのだ。たとえそれが見慣れた署員の制服だとしても。 「というわけでチャッチャと測るわよー」 せっかく身につけた制服を脱がしにかかるスワンに、バンはジタバタ暴れるが敵うわけもない。チーニョ星人は見掛けに寄らず怪力だった。 「ほら、ドゥギーは出てくの!」 バンのベルトに手をかけながら、メディカルルームから指揮官を蹴り出す。 「あらー、ウェスト細いわねぇ。うらやましいわぁ」 「スワンさん!どこ触ってンす…、やッ、あ…ぁん!」 「肌はスベスベだし、感じやすいし…おいしそうねー」 バタン、と閉まったドア越しに聞こえる会話にメディカルルーム前は鼻血の海と化し、一般署員たちが遠巻きにそれを眺めたあと無言で片付けていた。 「じゃ明日までには用意できるから。今日は我慢してね」 採寸だけですでに疲労困憊。バンは再び袖や裾を捲った制服を着て、デカルームへと向かう。しかし足取りは重い。ドギーは事態を把握済みだからいいのだが、問題は他のメンバー。どんな反応されることやら。 「あーッ、ウジウジしてても仕方ねぇ!気合いだ、気合い!正義は勝つ!」 だいぶ混乱しているらしい。自分でも何を言っているかわかってないのだろう。 とりあえずメインルーム入り口で両頬を叩き、よしっと呟いた。 「遅くなりましたー!」 「遅いぞ、バ…」 みんなが振り向き、静まり返った室内。視線が痛いほど突き刺さる。 「遅かったな、バン。大丈夫だったか?」 入り口で身構える(でも逃げ腰)バンと、彼(彼女)を見て固まる面々を助けるようにドギーが隣に立った。 「ボス…今、」 「『バン』って…」 「ナンセンス。あぁ見えても先輩は男ですよ、ボス」 「アメリカンジョークですか?」 「いやぁ…お綺麗だ…」 予想通りの反応だが、正真正銘バンなのだから信じてもらうしかない。が、どうやって証明していいのやら。ドギーも説明しきれずグルルル…唸るしかない。 すると。 「ちょいと失礼」 グローブを外したジャスミンが肩に触れた。 ジャスミンはエスパーである(略) 「……貴女が本物のバンなら……エッチなビデオがクローゼットの奥にある赤い箱の中に隠してあるわ」 「うわわわわ、な、何言ってんだよ、ジャスミン!」 「テツ、バンの部屋を捜索してこい!」 「ロジャー!」 「バカ、相棒! やめろ、テツ! やめてくれーッ」 追い掛けようとするバンをドギーが羽交い締めにする。バンに悪いが今はバンである証拠が必要なのだ。 2分後。 「ありました! たしかにクローゼットの赤い箱の中に!」 泣き崩れるバン。 「さすがジャスミン! …てことはぁ…ほんっとーにバンなの?」 「え? あぁ…うん、そうなんだけど…」 「なぁんで女の子になっちゃったの? でもすっごい美人!」 「ウメコ、オレだって信じてくれんの?」 まだ羽交い締めしているドギーを振り払い、ガシッとウメコの手を握った。 「再び失礼」 ドギーを押しのけ、ウメコに縋っているバンの背後から近寄ったジャスミンがむんずと胸を掴み、感触を確かめる。 「ぅあンっ、あ…ぅ、ちょ…ジャスミ…ン〜!」 「B83…てとこね」 「へへーん、あたしの勝ちー♪」 「…お前たち…」 おいてきぼりの男性陣。センはにやにや眺め、テツは顔を赤く染めてやや前屈みに、ホージーは口をパクパクさせたまま鼻を押さえていた。 そんな部下たちに眩暈を覚えながら、ドギーはデスクに戻る。 「みんなとりあえず職務に戻れ。バンは内勤だ、いいな」 「えーっ、なんでッスか」 すでに書類に目を通し始めていたドギーに噛み付くような猛抗議。デスクワークの苦手なバンにとって内勤業務は地獄そのものだ。 「今のお前は変身できない」 デカメタルには本人確認のプロテクトがかけられている。性別から変わってしまっているバンのデータはまだ処理中のため、デカスーツが装着できないらしい。 「仕方ないだろう」 鼻にティッシュを詰めたままキーボードを叩くホージーにバンが詰め寄った。 「なんでだよ相棒!オレなしでヘーキなのかよ」 「ノープロブレム、足手まといが減ってちょうどいい」 「なぁにぃをぉ〜〜〜〜」 キーボードから視線を外さないホージーの背中を蹴り倒してバンが怒り狂う。 「…なぁんかホージーさんの様子、ヘンじゃない?」 「恥ずかしくて直視できないんだよ、きっと」 「意外と純情派?」 「…ナンセンス」 しばらく傍観していた四人だが、いつまでも低レベルな口論を繰り広げる二人をほっといて、さっさとパトロールに出掛けるのだった。 ― 続く 女性化ネタの続きです。バンはみんなに胸を揉まれてナンボ!とわけのわかんない目標を掲げているので、今回スワンさんとジャスミンに揉んでもらいました。 …って私はいったい何を言ってるのでしょう。 2005.09.06 朝比奈朋絵 |
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