チョコレート・エトセトラ




「先輩先輩!今日何の日か知ってますか?」
纏わり付いてくるテツは明らかに何かを期待している顔で。
コイツのこういう所って可愛いと思う。普段はできる限りエリート然としてるくせに(それでも仔犬みたいだ)オレの前では喜怒哀楽を全開にして懐いてくるんだから。
「ただの月曜日だろ。あー、だりぃ!」
んーッと伸びをしてデスクに突っ伏すとボスからお小言を頂いてしまった。…ちゃんと仕事しますってば。
「先輩!」
「うるさいなぁ、なんだよ」
わかってるけど言わない。オレがリードするんじゃなくて、頑張って粘ってみろよ、テツ。
そんな気持ちで言ったのにさ。
「…いいです。すみませんでした」
なんであっさり引き下がんだよ!
すごすごと背中を丸めて退室するテツをオレは慌てて追いかけた。
だから知らなかったんだ、みんなが何を言ってたか。
「バン…見事にひっかかっちゃったねぇ」
「腐っても特キョウ、てか?」
「まだまだお子ちゃまだねー、バンは♪」
「だから甘いっていうんだ」
「若いっていいわね、ドゥギー」
「そうだな」


「待てって!」
「パトロール行くんです。離してください」
しょげて目も合わさないテツに、オレもこれ以上知らんぷりは出来なかった。
がさごそとポケットを漁り、ちょっとヨレヨレになった袋を取り出す。
「これ、やる!」
紅くなる顔を背けて突き付けた途端。
「やぁっぱり先輩ってば可愛いですねvv」
ガバッと抱き竦められて、耳元にキス。
あーっ!!! ちっくしょー! また騙された!!
文句を言えば言ったで「ナンセンス!騙してるつもりなんてありません。先輩が勝手に騙されてるんですよ」と返されるがオチ。
年下に弄ばれてる現状がくやしくて、オレはテツを振りほどくと一目散にデカルームに戻った。


「先輩の愛はチロルチョコ2つ分なんですか?!」

背後で叫ぶテツを振り切り、ジャスミンとパトロールに出る。
お前なんざそれで充分だ!ありがたく思え!


「先輩。お返し、楽しみにしていてくださいね」
ライセンスに入った通信に嫌な予感…と呟くと、ジャスミンがポンと肩を叩いた。
「素直じゃないな、バンちゃん♪」
…ってジャスミン、なんでグローブ外してんだよ!


その夜、どうなったかは誰にも言えない。








報告書を仕上げながら独り言を言うのがバンのくせ。
だいたい報告書の内容をぶつぶつ呟いてるのだが、今日はちょっと違っていた。

「今年もゼロ…」

「何が?」
たまたまバンの後ろを通り掛かったウメコがおんぶお化けのように背中に張り付いて聞く。
「チョコが」
真剣に嘆くバンに俺だけでなくウメコもジャスミンもホージーまでもが思わず笑ってしまった。
「なんで笑うんだよ!大事なことだろ!」
バレンタインにチョコが貰えないのはさ!と力説するバンは知らない。地球署ではチョコの受け渡しが自然消滅していることを。
圧倒的に男性職員の多い地球署では義理チョコを配るのも大変だ、といつしか消えていたのだ。…本命は別だけど。
「バンならそう言うと思ったんだよねー。だからハイ♪」
渡された可愛い包みにバンが涙を浮かべんばかりに喜んだ。よしよし、とツンツン頭を撫でるウメコが俺の視線に気付いて笑う。
「センさんも欲しかった?」
「いや…その…」
「オヤツにどうぞ♪」
ピンクの袋には緑の銀紙に包まれた☆型小粒チョコが3つ入っていた。
…てことは、
「1個しか入ってないじゃんよぉ」
案の定赤い☆型チョコを握り締めてバンがうなだれる。

「ポイント295にアリエナイザー出現!全員出動!」
その一言に緩んだ空気は引き締まり、一斉に駆け出した。

密輸と無差別殺人の罪でデリートされたアリエナイザーは思いの外手強く、署に帰ってきた頃には皆ぐったりしていた。特にバンは大量のアーナロイドとも戦闘を繰り広げていたのだから倍増だろう。
お先にー、と引き揚げていく仲間たちを見送ってゆっくりと報告書をまとめる。
そしていつしか二人だけになっていた。
「おつかれ」
報告書をボスのデスクに提出し、静かにトン、と突っ伏したバンな頭の横に小さな箱を置く。
「疲れた時には甘いのが一番」
パトロール中に見つけたケーキ屋で買っておいたチョコレートケーキ。驚きつつも中を確認して頬を綻ばせた。
「サンキュ、センちゃん」
「いえいえ、気持ちですから」
はたしてコレの意味がバンにちゃんと伝わったのか。首を傾げてるところを見ると100%わかってないだろうなぁ。
まぁわかってなくても受け取ったんだから了承ととらえさせてもらうけど。ちゃんと言ったしね、『気持ち』だって。

さーて。明日から楽しみだぁ。

Fin.





遅ればせながらのバレンタイン企画・デカレン編。(犬赤編はまた別でアップします)
緑赤編でなぜバンちゃんが「ことしゼロ」と言ったのかといえば、同期訓練生からチョコを渡されても「お菓子をくれた」程度にしか考えなかったから。超ニブチンです。…それを踏まえるとセンちゃんも同じですな、あはは。
白赤は…バンちゃんが素直じゃないようです。わざと煽って怒らせてひっかかったフリをして、自分に関心を抱かせ続ける努力をしてる…のかなぁ?



2005.02.20 朝比奈朋絵 




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