エタニティ・ロード


『とうとう宇宙一のチームになったわね』


「宇宙一、かぁ」
にへらぁと顔を緩めるバンは未だ興奮が治まらないのか、皆が寝静まる中、窓の外に広がる夜景を眺めながら今までの戦闘の数々を思い出していた。
苦しい戦いもさることながらマイラに振られたり、走り回ったり、新選組の扮装したり、自転車漕ぎまくったり…。いろんなことあったよな、と思い返す。
ふと『時間を止める魔法』が頭に浮かび左手で模ってみる。マリーの笑顔と唇の柔らかさに、たしかに心がざわめいたが…。あれは…。
「逢いたいか?」
「ボス!」
いつの間に来ていたのだろう。いや、その前に。
「…近いッスよ」
逃げ道を塞ぐつもりなのか、ドギーの両腕はバンの身体を挟む位置にあって。
まるで背中から抱きしめられてるようで恥ずかしい。
「何がだ?」
しれっと答える指揮官が憎らしくてむくれる。
何でもないッス、唇を尖らせたまま再び眼下の明かりを見遣って目を細めると、今度ははっきりと抱きしめられた。こめかみを時折掠めるドギーの顎ヒゲ(ヒゲじゃない、と怒られた)がくすぐったい。
「彼女に逢いたいか?」
さっきと同じ問い掛け。多少焦りが滲んだ声に舌打ちしたい気分になった。努めて冷静な口調を保とうとして失敗したのだ。
「はい」
ドギーの鼻先が微かに震える。静かで揺るぎない答えに血が騒いだ。
「そうか…」
絞り出すような返答にバンが振り返り首を傾げる。幾分伸びてきた髪がサワ、とドギーの頬を撫でた。その感触に押さえ付けているエゴが溢れ出しそうになる。行くな、と言いたくなる。
「なぁに深刻な顔してるンスか?マリーは戦友です。地球を守ったら報告するって約束しただけッスよ」
クスクス笑うバンを強く抱き竦めた。慌てたバンの耳に告げる。
「ファイヤースクワッドへの異動が正式に決まった。…栄転だ」
「え…?」
身体を離してドギーを見つめる瞳は複雑な色をしていた。驚きと不安と喜びと…寂寥。
「明日辞令が下りる。異動の前に…」
「マリーに会いに行けって言うンスか?」
剣を帯びた声音、怒気を孕んだ目。バンの唇がわなわなと震える。敢えてバンから目を逸らし拘束を解くと背中を向けた。
「疲れただろう。ゆっくり休め」
そう告げおいて去ろうとする背後でバンが何事か呟いたのが聞こえる。思わず立ち止まり振り返る直前背中に衝撃を受け、迂闊にもつんのめって転倒してしまった。
「バカにすんのもいい加減にしろ!」
怒りもあらわにバンは転がったドギーの腹に跨がり、胸倉を掴んで揺さ振る。興奮するがあまり掴む手は震え、目は涙を湛えていた。
容赦ない力は地獄の番犬とて苦しい。
「中途半端なことしてんじゃねぇよ!」
相手が上司だとか関係ない。こんなふうに突き放されるなら最初から構わないでほしかった。
バンは零れる涙を乱暴に拭って鳴咽を堪える。
「バン…」
拭っても拭っても止まらない涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔も可愛い、なんて思ってる自分はよほど重症だな、とこっそり苦笑してドギーは頬を包み込んだ。
イヤイヤをするように振る頭を押さえ、腹筋を駆使して起き上がると間髪入れずに唇を塞ぐ。
なおも続く抵抗は舌を差し入れて封じ、さらに両手も拘束することを忘れない。
抵抗がなくなった頃両手を解放し、抱き寄せるとゆっくり背中を撫でて呼吸が整うのを待つ。
「…うやむやにするのだけは…やめてください」
どれくらい経っただろう、バンの掠れた声が響いた。小さいが意思の強いその声にドギーも逃げるのをやめる。いや、振り向いた時点で気持ちは決まっていたのかもしれない。
「地球署で待っている。…成長したお前が帰ってくるのを」
「それは…上司としてッスか?」
不満なのか、若干尖る唇に舌を這わせて黙らせる。
「プライベートな時間はなるべく俺のために空けておけ。会いに行く」
「それって…」
少し高い位置にある琥珀色の瞳をボー然と見つめフリーズするバンに、ドギーがニヤリと口を歪めた。
「せっかくの非番を他の奴とのデートに宛てたら…お仕置きだからな」
そもそも出来立てほやほやのチームに早々休みがあるとは思えないし、ドギーの多忙さも知っている。それでも約束してくれる気持ちが嬉しくて。
「ロジャー!勤務ローテーションはこまめに送ります!で、早く立派な『赤い特キョウ』になって地球署に戻ります!だから」

浮気したら緊急逮捕ッスよ。


その晩は夜が明けるまで睦みあっていたのはいうまでもない。


そして翌日。
「赤座伴番。ファイヤースクワッドへの異動を命ずる」
「ロジャー!」

晴れやかな笑顔を浮かべ、明日への第一歩を踏み出した。



【おまけ】

「ところでマリーに会いに行くのは結局OKなンスよね」
「………まぁいいだろう」
「ホント心配性ッスねー、ボスは♪」
お前が無防備すぎるんだ、とも言えず、しばらく胃薬が手放せないドギーだった。


Fin.





いまさらなんですが最終回記念SSです。
本当に、本当に終わっちゃったんだなぁと毎週日曜日朝7時30分になると実感します。
珍しく強気なバンちゃんが書きたかったんですけど、強気になってますか?イマイチ不安…。
実は…この話には完全裏行きのSSがあるんですが…。サイトに載せるのもなんとなく憚れるのでメール配信にしようかと思ってます。本当にえっちシーンだけですので…。 興味のある方は moe_1015@hotmail.com までメールをください。(コピペしてください)

2005.03.01 朝比奈朋絵 








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