ペルメル・ミッション


バンがファイヤースクワッドの一員として宇宙警察本部に来て1ヶ月。
出来たばかりの部署、特殊なチームのため訓練は熾烈を極める。
今日も訓練メニューと警察官としての通常業務(当直勤務)をこなし、シャワーを浴びて休もうとしたところでチーフであり、バンを赤い特キョウに引き抜いたギョクが声をかけた。
「バンバン、さっき地球署から連絡があったぞ」
「へ?なんで?誰からッスか?」
「あれは誰だっけなぁ」
「センちゃんだ!」
ギョクがとぼける相手と言えばセンしかいない、とバンは勝手に確信し、急いで自室に戻ってセン宛てにコールする。

「センちゃん!」
「あぁ、バン。久しぶりだねぇ。どした?」
「どーした、じゃねぇよ。連絡くれたんだって?」
相変わらず掴みどころのない口調に苦笑を浮かべながら互いに近況報告を交わす。センの背後からテツやウメコ、ジャスミンの声も賑やかに響き、地球署で過ごした日々を懐かしく思い出していた。
「なぁ、相棒は?サボり?」
さっきから声がしないのが気になって聞けば、遠くから「相棒って言うな。ついでにお前と一緒にするな」とツッコミが入った。
「ホージーはボスの代わりで忙しいんだよ」
ボスが出張の間、ホージーが署長代行として任されるのはちょくちょくあって。
つまりそれは…
「ボスいねぇの?」
「本部に向かってるよ」
期待通りの返答に浮足立つ。と同時に連絡をくれないドギーに少し腹を立てた。
その後もしばらく会話を続けていたが、ホージーのカミナリが落ちてお開きとなり、すぐさまドギーへのホットラインを繋ぐ。
「こちらドギー・クルーガー」
数回の呼び出しの後繋がった声は、移動中のせいか多少ノイズ混じりの、でも懐かしい低音。
「みずくさいッスよ、ボス!」
「バンか」
挨拶もそこそこに噛み付く。笑いを含んだ返答にバンはさらにがなった。
「なんでこっちに来るって教えてくれないンすか!」
「急な会議でな。それに連絡ならしたぞ。ギョクに聞いてないのか?」
「え?…ボスからだったんだ」
地球署からの連絡はセンではなくドギーからだったらしい。
そうならそうと言ってくれればいいのに、と飄々とした顔のギョクを思い浮かべ唇を尖らせる。
「あとどれくらいで着くんですか?」
それよりも何よりもまずはドギーが先決。久しぶりだし、少しでも時間があるなら逢いたい。
「あと1時間くらいだな。しかしすぐ会議に行かなければならないんだ」
「あー…そうッスよね」
明らかに気落ちした声音にドギーの隠れた尻尾が揺れた。少なからず自分に逢いたがってくれているのだと、年甲斐もなく浮かれてしまう。
「時間ははっきりしないが…終わったら連絡入れる」
「いいンすか?」
「ホージー達には悪いが…少しくらいはいいだろう。だが遅くなるかもしれないぞ?」
「平気ッスよ!」
軽く仮眠して部屋の掃除して…とバンは今後の計画を頭の中で立てながらウキウキと通信を切った。
「よっしゃーッ寝るぜ!」

…と言って気合い充分で眠れるわけもなく、しばらく寝返りをうっては「眠れ〜眠れ〜」と呪文のように唱えていた。起床予定時刻間近になってようやく眠りに落ちたのもお約束と言えばお約束。訓練と当直で疲れた身体は休みたがっているのだから仕方ない。


「…ン、バン…」
ふわり、漂う懐かしい匂いと馴染んだ声。
ぼんやり目を開ければ蒼と白が視界に滲む。漠然と夢だと思い込んだのは、ここにあるはずのない色だから。バンはうっすら笑い、再び枕に頬を埋めた。
「相変わらず、だな」
苦笑いを含ませた声だが、楽しそうな表情は隠せない。
髪を梳きながらしばし寝顔に見入る。
地球署に配属された頃よりも精悍さが増した。元から細い身体はさらに絞り込まれ、しなやかな筋肉が付いている。
成長著しい彼にいつか置いていかれそうだ、とドギーは嬉しさ半分淋しさ半分で見下ろした。
…寝顔はこんなにもあどけないのに。
どんな夢を見ているのか、口元に笑みを浮かべたままで。
ミネラルウォーターでも飲んで気を鎮めようと腰を浮かせると、ツン、軽い抵抗を感じた。
見ればバンの手がドギーの制服を握り締めていた。一瞬目を見開いたドギーだがすぐに柔らかく笑い、襟元を寛げる。
「仕方がない」





ピポパポッ
呼び出し音が響き、バンは無意識に枕元に置いておいたライセンスを探る。が…
「俺だ」
応答する自分以外の声と鼻先をくすぐる柔らかな毛並み。
『ドゥギー、お楽しみのところ悪いんだけどすぐ戻ってきて』
ライセンスから聞こえるのはギョクではなく…
「…!スワンさん?!」
『バン〜久しぶりねぇ、元気? ちょっと今日急いでるからまた今度ゆっくりね』
一方的にまくし立て通信を切ったスワン。ライセンスを閉じながら溜め息をつくドギー。そしてそのドギーに抱き着くように眠っていた自分。無意識に服を着ているかチェックしてしまうのはドギーの普段の行いの悪さ故、と許してもらいたい。
「え?え?」
状況が把握できないのか目をぱちくりさせ、苦笑いを浮かべたままのドギーを見つめる。
「すぐ戻らなきゃいけなくなったようだ。すまんな」
やんわり頬を撫でられて軽くキス。
じわじわ浸透する独特のキスの感触にこれが夢じゃないこと実感した。せっかく逢えたのにもう帰ってしまうなんて!とバンは焦る。
「ボス!」
すでにベッドから下り制服を整えるドギーがゆっくり振り返った。もう仕事の顔に変わっていて何も言えない。
「…いえ、何でもないッス。気をつけてくださいね」
「ああ」
「みんなによろしく」
「ああ、伝えよう」
静かに答えるドギーの顔を見ていたバンだが、やはり悔しさは我慢出来ない。いきなり頭を掻きむしって喚いた。
「…あ〜〜〜ッ、もう! なんでオレ寝ちまったんだよぉ! ボスも起こしてくれたっていいじゃないッスか!」
「悪かったな。可愛くってつい」
仕事モードから一転、響く甘い声音で囁いてもう一度キス。広い胸に抱き込まれて交わすくちづけはどんどん深くなっていく。
もっと、と絡まる舌に応えようとしたところで再びライセンスが鳴った。
『バンバン、ポイント625-Aにアリエナイザー出現。応援を頼む』
「…ッ! ロ、ロジャー」
濡れた唇、少し掠れた声で応答するバンをドギーが名残惜しそうに見遣り、身体を離す。
「ほら急げ」
「ボス、」
「また逢いにくる。その時は、……からな」
肩に手を置かれ、耳に吹き込まれた言葉に一気に赤面してしまう。
「バン、返事は?」
「うぅ…ロジャー!! …ソレは別として、次は絶対デートしましょうね!」
「ああ、わかった。約束する」
「じゃオレ行きます! …いろいろとごめんなさい!」
慌ただしく身支度を整えバンはぺこりと謝る。忙しい中逢いに来てくれたのに寝こけていたこと、見送りもせず先に出てしまうこと。…素直になれないことも含め。
「気にするな。がんばってこい」
くしゃり、髪を掻き混ぜられる優しい感触にバンの顔も綻ぶ。
「ロジャー!」
敬礼する姿勢、声が自然と心地よい緊張に包まれたものになるのはやはりドギーを前にしているからか。現金な自分にバンは苦笑を禁じ得ない。
もう一度敬礼すると部屋を飛び出した。

軽やかに走り去る背中を見送ったドギーはギョク・ロウに挨拶するために司令室へと赴く。
「我が儘を言ってすまなかったな」
本来セキュリティの関係上、個人の部屋に入室するには本人の開錠か本部が保管するマスターキーが必要で。
「クルーガー先輩の頼みなら仕方ありませんよ」
そう微笑む目が笑っていないように思えるのは気のせいだろうか。
「それより急がなくていいんですか? スワンさんに怒られますよ」
「そうだな……ん? 待て、なぜお前…」
「お送りします、クルーガー先輩」
ぐいぐいと背中を押されコックピットに乗り込むと、あっという間に発進システムを解除されてしまった。
「お元気でー♪ 可愛い可愛い部下は私が責任もって面倒みますから」
届かないメッセージを呟き、上機嫌でデカルームへと戻るギョクに本部の職員は引き攣った笑みを浮かべる。
あの『地獄の番犬』にケンカを売る男、ギョク・ロウ。ある意味、一目置かれる存在になっていた。




一方地球署。
「遅かったじゃない、ドゥギー」
「すまん。それで事態は?」
呼び戻されるほどだ。深刻な状況なのだろう、ドギーの声も厳しくなる。
「あぁ、とっくに片付いたわよ」
「何?!」
「みんな成長したわねぇ」
あっけらかんと告げるスワンは実に穏やかな笑みを浮かべているのだが、今はその微笑みに意図的なものを感じた。…嫌な予感がする。
「…スワン…まさかとは思うがギョクに何か…」
「なぁに?ギョクちゃんがどうかした?」
パーフェクトスマイルは時に恐ろしいものとなる。地獄の番犬とてこの女性には勝てないらしい。
息苦しさを感じ、襟元を緩めるとスワンの目が光った。
「ドゥギー、寝癖付いてるわよ、コ・コv ついでに…それは涎の跡かしら〜♪」
ふさふさの白毛がくしゃくしゃぱりぱり固まっているのを楽しそうに指摘する彼女に、ドギーはコンソールに突っ伏して唸るしかなかった。



Fin.





最初ホワイトデーSSとして書き始めたんですが、時期を逃してしまったので普通のSSに変更。
ちゃんとバンがファイヤースクワッドに異動して遠距離恋愛中。久しぶりに逢ってお預けだったんだ、ボス…。ごめんね。本当はエロに発展させてもよかったけど表に載せるためなので割愛、ていうかお預け。私、お預け大好きみたいです。


2005.03.31 朝比奈朋絵 








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