シンキング・シンギング よっこらせ、 独特なシンキング・ポーズに初めて目にする人間はたいてい驚く。 そしてそれはバンも例外ではなかったようだ。 「なぁセンちゃん、逆立ちしてる時ってどんな感じなんだ?…あ、そこそこ〜、気持ちイイ〜」 バイズ・ゴアの爆弾付きランニングゲームに付き合わされたバンがトレーナーからマッサージを受けながら尋ねてきた。 差し入れで持ってきたスポーツドリンクをテーブルに置きつつ聞けば、バンは馬鹿広いスタジアムに途方に暮れて逆立ちしてみたらしい。しかし真似をしたくらいで名案が浮かぶほど簡単なことではないのだよ、バン。 「だぁってさ、逆立ちしたら頭血ぃのぼっただけでダメだったぜ」 気になるじゃん、と振り返ろうとするバンに、トレーナーは背中を押さえ込んで重点的にほぐす。よほど気持ち良いのか、すぐにうっとりと目を閉じた。バンのこの表情はなかなかクるものがある。 「真似してくれたのは嬉しいけどね、俺の特技を取るのは勘弁してほしいなぁ」 取り柄が少ないから、と笑って言えば案の定バンからフォローが入った。 ホージーより冷静で、視野が広くて、みんなを和ませて、いざって時は頼りになって相談しやすい…か。 なるほど、お世辞混じりだろうけどそれが現在バンの俺に対する評価ってわけだ。…ふむ、可もなく不可もなくってところだね。 『ホージーより』ってのがひっかかるけど今回は不問に付しときましょう。 「オレ、センちゃんのそーゆーとこ好きだぜ」 思考の海を漂っていた俺が不機嫌そうに見えたのか、バンは顔をこちらに向けて必死に言い募った。 事件での衝突は辞さないのに、不必要に相手を傷付けるのを怖がる。優しいヤツよね、バン。そしてその優しさが罪作りだったりするんだよ? トレーナーさんが肩を震わせて笑っている。「終わりです」と笑いを堪え、バンの身体にかけてあったタオルを手早く片付け出て行った。 「ホントに好きだからな、センちゃん」 トレーナーさんと入れ代わるように入ってきたホージーが入口で固まる。 バンはホージーが来たことに気付かない。 そして俺はと言えば… 「ありがと、バン」 湿り気を帯びて寝てしまっている髪をくしゃりと撫でた。わざと柔らかく微笑み、顔を近づけて。 一瞬ホージーの視線が激しさを増したが、苛立ちを募らせたまま何も言わずに立ち去っていく気配。きっと今頃廊下の壁でも殴ってるんじゃ。…青いね、ホージー。 俺はわざわざ誤解を解いてやるほどお人よしじゃない。ていうかさっきのはワザとだし。 「じゃ戻りますか」 ホージーとのバン争奪戦に新たな参戦者を迎えることになるのは約一ヶ月後のことだった。 Fin. 書いておきながらずーっと放置されていた緑→赤です。緑赤、ではありません。片思い。私は基本的にセンちゃんには片思いでいてほしいようです。犬赤はあんなにラブラブなのに。でもこっちのほうがバンちゃんらしい気がする…。 2005.06.26 朝比奈朋絵
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