ふくよかなキモチ 高く短く、それでいて甘さの滲んだ嬌声が薄闇に響く。それを追うように低く息をつめる声が漏れた。 そして荒い息遣いだけが室内を満たす。 「大丈夫か、さくら…」 濡れ光る紅い唇はまだ忙しない呼吸を繰り返す。 無理をさせたのかもしれない、と明石はさくらの額や頬に張り付く髪を優しく払いながら鼻先にキスを落とした。 「だいじょ…ぶ…です」 心配げに覗き込む明石に淡く笑みを掃き、見下ろす彼の額に浮かぶ汗を拭う。その仕草に安堵したのか、眉間からシワが消えて頬が緩んだ。 「よかった…」 負担をかけなくてよかったのか、今の行為がよかったのか…さくらは曖昧なまま「はい」と頷いた。 覆いかぶさってくる明石を受け止め、互いの体温と鼓動を感じながら幸せなひと時に身を委ねる。 しかし。 (苦しい…かも) 徐々に息苦しくなってきたのを感じる。 あまり経験のないさくらは自らの体の位置を変えて収まりのいい場所を探すのが恥ずかしくて、いつも明石が体勢を変えるまで潰されたままなのだ。 (息苦しくなるなんて今まであったでしょうか…) 明石の吐息を首筋に感じながらも、さくらの思考は甘いこの現状とはかけ離れたところを漂っていた。 そしてふと思い至る。 さわさわ…さわさわ… 「さくら?」 「…………」 さわさわ、さわさわ。 戸惑う明石をよそにさくらは腰、わき腹、背中と触りまくる。 「さく、」 「やはり…」 問い掛けより早く、さくらが上目遣いに見上げた。その目はなんとも複雑な色で彩られていて。 「…どうした?」 明石は何があったのか全くわからない。不安げに小首を傾げた。 「チーフ…あの…」 口ごもるさくらに「ん?」と先を促す。 それでも言いにくそうなさくらの気を楽にさせようと頬をくっつけ髪を梳いていたら……… 「お、重いです、チーフっ」 さらに息苦しくなってしまったらしい。 その一言にピシリ、と固まる明石。しかし一瞬で我に返ると慌ててさくらの上から降りる。 さくらは深呼吸を繰り返しながらも「すみません…」と小声で謝り、しょげ返っている。明石を傷つけてしまったと思っているらしい。 「す、すまん。重かったか?」 「いえ、ただちょっと…腰の辺りや…ぁ、すみませんっ」 思わず口の滑ってしまったさくら。ペコペコと頭を下げる彼女の艶やかな黒髪が踊る。そんな様子が可愛くて綺麗で、いつもなら第二ラウンドに突入するのだが…「重い」発言はさすがに堪えたらしい。ムスコはしゅーんと萎んでいた。 「気にするな、な?もう寝よう…」 今にも泣きそうなさくらを抱き寄せ、負担にならないように横たわる。頭をポンポンと撫でるとさくらも微かに頷いた。 お互い気まずい思いをしながらも、触れ合う肌はやはり気持ちがいい。眠りに落ちても二人が離れることはなかった。 その翌日、一心不乱にエアロバイクを漕いでいる明石を訝しげに眺める蒼太・真墨・菜月・映士の四人と、頬を赤らめつつ申し訳なさそうに見つめているさくらの姿があった。 終
某雑誌の赤桃対談を読んだ時に「…チーフ…顔丸すぎ!!!」と複雑な気分になったまま書きなぐったSSでした。 これには別ver.もあります。「読んでやってもいいよ」という方はコチラからどうぞ。 2006.12.08 朝比奈朋絵
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