水のような空気のような


土砂降りの雨の中、傘を差して全力疾走する。
あと5分で日付が変わる。それまでにどうにか家にたどり着きたいのだが。
キョロキョロ、と周りを見渡し人影がないのを確認すると「館長、ごめんなさい」と小さく詫びを入れ忍術を使った。


「ただいま!」
飛び込んだ時間、11時59分。ギリギリセーフ。
そんな鷹介に一甲が苦笑を浮かべながら出迎える。どうやら空駆けの気配を感じて玄関でタオル片手に待ち構えていたらしい。おかえり、の言葉とともにいささか乱暴に濡れて水の滴るジャケットを脱がされ、バスタオルで髪を拭われた。
「術は感心しないな。無限斎殿に知られたらまた説教だぞ」
「内緒にしててくれるんだろ」
くしゃくしゃと髪をかき混ぜられながら尖らせる唇に、触れるだけの口付けを落として「おめでとう」そう囁く。
ありがとう、の言葉は再び重ねられた一甲の唇に吸い取られて。絡められる舌の熱さにすぐに息は上がる。かくん、と膝の力が抜け一甲のジャケットに縋りつく形になった。
「ん…っ、はぁ…、…中、はいろぉぜ?」
濡れ光る唇が笑みをかたどる。誘うような顔を見せながらも「お腹減っちゃった」と肩透かしを食らわせる鷹介。いつもなら食事をする間も与えず組み敷くが、今日は特別で一甲も熱くなり始めた身体を諫めて苦笑を漏らす。
「簡単なものでいいか?」
「うん!」
手を繋いでキッチンへと向かう鷹介の顔にはそれはもう本当に幸せそうな笑みが浮かんでいた。

一緒にお風呂に入り濡れた髪を丁寧に乾かしてもらって、恭しくベッドに運ばれて。
いつもより優しく、鷹介が焦れて懇願するほど全身を愛されて。
身も心も満たされた。

「すっげしあわせ…」
まだ外は雨が降り続いていたけれど、雨の音ですら愛しいものに感じる。
「ありがとな、一甲」
胸に懐く恋人をやんわり包み込み、サラサラ流れる茶色い髪に指を滑らせた一甲は先日から繰り返す問いかけを言葉にする。
「本当にほしいものはないのか?」
今更なに言ってんの?とキョトンと見上げて、続いてフフッと笑い同じく何度も繰り返した答えを返した。

「お前がいればいいよ。一甲の一日をちょうだい?」


一甲の気配を感じて、匂いを感じて、体温を感じて、鼓動を感じて。
こんな贅沢な一日はないよ。




 終 





…2日遅れになってしまいました凹 しかもなんだこの甘いモノは!
ナマ部屋のSちゃんは積極的に「ちょうだい」と言いましたが、表の鷹介は可愛らしく可愛らしく。…砂糖ツボください…。

2004.06.09  朝比奈朋絵 




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