風のラブレター


今年の冬は暖かいのに、一甲の首には深い臙脂色のマフラーが巻かれている。
そして彼はそれに顔を埋めてとても幸せそうに笑うのだ。


「いいなぁ」
何が?と吼太がコーヒーとリーフパイを差し出しながら問う。おぼろには焙じ茶と煎餅を出す細かい心くばり。さすが吼太というところか。
「私も彼氏欲しい〜」
ここに一鍬がいたらどんな反応を示しただろう。おぼろと吼太はそれぞれ想像し苦笑を漏らした。
「なんで急にそんなこと…」
「だって今年もクリスマスは仕事なのよー。『彼氏いないからいいよね』って馳さん言うし!」
ひどくない?とぷりぷり怒りながら吼太に詰め寄る。吼太だってずーっとクリスマスはバイトやら仕事やら任務やらで世間一般の華やかな行事とは無縁である。
「それにさ、鷹介と一甲見てると恋愛もいいなぁって思うのよ」
付き合い始めて2年近くになるというのに倦怠期知らず、無敵の万年バカップル。ケンカは日常茶飯事らしいが、それだっていちゃいちゃの布石にしかならない。
「あの一甲があんな表情するなんてさ…」

街角で偶然見掛けた。
雑踏の中、いつものジャケットに見慣れないマフラー姿で信号待ちをしていて。声を掛けようと思った瞬間、微かな風を感じ、首を竦めてふわり、微かに笑みを浮かべた。
まるで今ここにいない想い人を見るかのような甘い瞳。
本当に暖かそうで、幸せそうで。
その空気を壊すのが躊躇われて七海はそのまま黙って帰ってきたのだった。
「あれ、絶対鷹介からのプレゼントよ」
傍にいないのに確かに繋がりあっている、その暖かく穏やかな愛情が素直に羨ましくて。
七海はもう一度「彼氏欲しいーッ」と叫んだ。


そんな仲間の会話の数日前、鷹介は一人で任務についていた。
当初の予定を越えてもターゲットが動かず、自然と鷹介の任務も延長となってしまい、唇を噛み締める。
携帯はもちろん、ジャイロも緊急時以外使用禁止。
(一甲の誕生日なのに…)
おめでとう、も、ごめん、も伝えられない。
せめて一甲に届けばいいのに、と冬にしては厳しさの緩んだ風にありったけの想いを乗せる。

誕生日おめでとう。
一緒にいられなくてごめん。
生まれてきてくれてありがとう。
いっぱい愛してくれてありがとう。
オレも…愛してる。

一甲まで届きますように。
帰ったらちゃんと言葉にするから。
今はただ風に願うだけ。


鷹介の任務が終わったのはその二日後のこと。
キライな報告書も一生懸命書いて、挨拶もそこそこに研究所を飛び出した。
少しでも早く逢いたいから。でも忍術を使いたいのは我慢して。

アパートの階段を2段飛ばしで駆け登る。
ノックする前に、鍵を取り出す前に開かれた扉。
「おかえり」 苦笑を浮かべる一甲の胸にまっすぐ飛び込んだ。
「誕生日おめでとう。…ホントは当日にちゃんと言いたかったのに」
胸に顔を埋める鷹介の頭を優しく梳いて、その手を頬に滑らせ顔を上げさせる。
少し潤んだ瞳が愛しくて、まぶたに小さくキスを贈ると耳元に唇を寄せて囁いた。
「ちゃんと届いたぞ?」
「え?」
言われた意味がわからず首を傾げてしまうのは仕方ない。だってその日は…
「お前の思念波は強すぎる」
あれでは敵にバレてしまうぞ、と再び苦笑いの一甲。あ、と思い至った鷹介は顔を綻ばせる。
「たっくさんの『おめでとう』と、たっくさんの『ありがとう』と……愛してる!」
幼い幼い告白に一甲も顔を綻ばせて。
『俺も愛してる』と唇に直接言葉を伝えた。

「今年、プレゼント用意できなくて…ごめん!」
「構わん。こうして一緒にいてくれるなら」
「〜〜〜っ! お前言ってて恥ずかしくねぇ?」
「本心だから仕方なかろう」

やっぱりこの2人には倦怠期は存在しないのかもしれない。





 終 





誕生日ネタです。おめでとう、一甲さん。
マフラーは去年の贈り物ですが、勿体なくてあまり使ってなかった様子。なので七海も初めて見たんでしょうね。


2004.12.11  朝比奈朋絵 







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