ゆく年くる年


互いの想いが通じ合って初めて迎えたクリスマスは散々だった。
サンタクロースの格好をしてたくらいだから当然日本のクリスマス≠知っていると高を括っていたオレも悪かったし、その後一甲がいつもより優しかったから一概にヒドイものとは言えないけど。
だから決めたんだ。年越しは一緒に過ごそうと。
日本人は日本人らしく年越しソバ食べて除夜の鐘を聞いて、人ごみにもまれながら初詣しておみくじ引いて。んで初日の出を見るんだ!
クリスマスのリベンジ、と意気込んだオレは一甲の腕に包まれながら一人気合いを入れた。

大晦日。零細人材派遣会社の新人であるオレもようやく仕事納めを終え、事務所をあとにする。
道行く人々もどこか忙しなく年の瀬ムードが漂う。人ごみの間を器用にくぐりぬけて一目散に研究所を目指した。
研究所ではすでに宴会の準備が整えられているはず。

「「「「カンパーイ!!!!」」」」「Cheers!」
大騒ぎで乾杯するオレ達3忍とおぼろさんとシュリケンジャーに呆気をとられている霞ブラザーズ、そしていつものように静かな表情で見守っている御前様。(館長は日本酒の注がれた器で溺れかけていた)
この激動の1年を振り返り、この場にみんなが集まっていられることを素直に喜ぶ。
ジャカンジャの襲撃で忍風館も迅雷義塾もみんなお札にされてしまった。迅雷流の生き残り・一甲と一鍬と敵対し、殺されそうになったけど仲間になれた。シュリケンジャー、御前様と出会えた。一甲とは仲間以上の絆を結んだ。そんな一年。
まだ戦いは終わってないけど、なんか負ける気しねぇ。いや絶対負けちゃダメなんだけど。隣に座る一甲の横顔を見て新たに闘志を漲らせる。
「来年も負けねぇぞ、ジャカンジャッ!!!」
拳を突き上げて叫ぶと一気に酒を呷った。


ふわふわと足元が覚束ない感覚。肩に回された温かい体温に意識がゆっくりと浮上する。
トサッと軽い音とともに背中に柔らかな感触を感じると、心地よい体温が遠ざかっていった。無意識に手を伸ばしソレを掴もうとするが何も手ごたえがなくパサリと落ちる。欲しい温もりが消えていく。
まぶたが重く、まだ目を開けられない。無性に寂しくなって思わず一甲の名前を呟くと…
「泣いてるのか?」
すぐ近くから囁かれる低い声。どうしてもその声の主が見たくて、鉛のようなまぶたを必死に押し上げる。
目を開けたのに、ぼやけてちゃんと確認できない。もう一度瞬きをすると、眦から何かが零れ落ちる感触がした。同時にふに、とちょっとカサついた、でも温かいものが頬、額、鼻先と触れていく。
「いっこぉ…」
ようやく声と唇の主を捉え安堵する。手のひらで一甲の頬を挟みオレの顔の前まで引き寄せた。
「気持ち悪くはないか?」
未だぼんやりとした表情のオレの顔を覗き込み、髪を一撫でする。
どうやらオレは酔っ払って眠ってしまったらしい。状況がわかるとどんどん意識もクリアになってきた。
「へーき。なぁ、今何時? みんなは?」
「11時ごろじゃないか? 他のヤツらもお前と同じ状態で寝てるが」
それがどうかしたのか?と目で聞いてくる。
よし、まだ日付は変わってない。
「一甲、初詣行こうぜ」
ペシペシと一甲の頬を叩きながらニッコリ笑っておねだりする。
さっきまで仄かに漂っていた甘い雰囲気を払拭され一甲は不満げだけど、オレはそんなの気にしない。
しかし一甲も譲る気はないらしく、首筋に顔を埋めながら「明日、皆と揃って行くだろうが」と反論してきた。
あ…っ、バカ。噛み付くなよ。
「お前と…二人きりで行きたいの!」
身を捩りながら一甲の頭を引き剥がし、睨み付けると渋々といった態で身体を起こした。
「一緒にお参りして、初日の出見に行こうぜ」
ムスッとした一甲に抱きつきながら再度お願いすると大きくため息をついてから、仕方ないな、と髪をかき混ぜられた。
「…お楽しみは後に取っておいたほうがいいと言うしな」
ニヤリ、と質のよくない笑みを浮かべる。…みんなともお参り行きたいからほどほどにしてくれよ、そう言いたかったけど、結果は大して変わらないんだろうな。

案の定、どこの神社も結構な混雑振りだった。でもはぐれないように、と珍しく一甲から手を繋いでくれたから人ごみに感謝。たとえどんなに寒くても、この手があれば大丈夫だと思えるから不思議だ。
ぎゅっと力を込めると、同じだけの強さを返してくれる。どちらか一方が守られているのではなく、互いが守り助けていく。そんなふうに感じて嬉しくなる。
「そんなに人ごみが嬉しいか?」
「お前がいるならどこでも嬉しいよ」
内緒話を打ち明けるように、耳元で囁くと小さくバカと返された。
すぐ近くの焚き火が一甲の横顔を赤く照らしているが、それだけじゃない熱を手のひらから感じる。それが楽しくて噴き出してしまった。
その瞬間。空に大輪の花。
この地域では1月1日になる瞬間に花火が上がるのだ。
パラパラパラ…と冴えた冬の空に散っていく花弁を見上げ、深呼吸ひとつ。
「HAPPY NEW YEAR! 今年もよろしくな」
ガバッと抱きつくと、一甲は驚いたように身体を強張らせる。人前では…という理性が働いているらしい。変なところで常識人ぶってんじゃねぇよ。
「おい、鷹介」
「おめでとう、って言ってくんねぇの?」
「……あけましておめでとう」
いささか棒読みだけど去年最後に、そして今年一番最初に一甲と言葉を交わしたっていう事実が胸にくすぐったい。ちょっとテンションの高くなったオレは、周りをキョロキョロと見回す一甲の顎に小さくキスをしてやった。
「な…っ!!」
慌てた顔もイケてるぜ、一甲。


「何を願い事したんだ?」
神社を出て、日の出が見たいというオレのリクエストのために海に来ていた。真っ暗な海は1人だと引きずり込まれそうで怖いけど、今は全然へっちゃらで。ひょいひょいと足場の悪い岩場で遊ぶ。
「ナイショ。お願い事は〜誰にも言っちゃいけないんだぜ」
「どうせお前のことだ、腹いっぱい美味しいものが食べたいとかそんなところだろう」
ムカッ! そんなんじゃありません〜!!
「んなガキじゃねぇよ!!失礼なヤツだな」
「ではもっと給料を上げてくれ、か」
お前の中のオレってどんなだよ。
「『地球が無事守れますように』に決まってんだろ、ハリケンジャーなんだから」
「それは我ら次第だろ。願うようなことではあるまい」
途端真剣な目つきになる一甲に、オレは敢えて明るい顔を浮かべる。
「わかってる。ジャカンジャなんかに負けないように日々鍛えて、戦いに備えて。でもこれで神様も味方につければ怖いもんなしだろ?」
不安がってるなんて悟られちゃダメだから。強い鷹介でいるために。
「…お前らしい」
一瞬一甲の目を複雑そうな影がよぎったけど、すぐいつものようにクシャクシャと頭を撫でてくれた。
「もちろん、お前と一緒にいられますようにってのもお願いしたけど」
口パクだけで言った言葉はちゃんと一甲にも届いたようで、いやらしく微笑むをと髪を梳いていた手をスルリと頬に滑らせた。
「それこそ神に願うことじゃないな」
今から教えてやる、と唇が触れる距離で囁かれた。

今からって、ココ、外だぜ? 寒いよ?
「すぐに熱くなる」
岩場の影でコトに及ぼうとするケダモノを押し留めるのは至難の業で。抵抗もそう長くは続かなかった。



結局この夜から朝にかけてオレたちは初詣・初日の出だけでなく姫初め≠ワでしてしまった。(男だけど姫なのか?)



 終 





あけましておめでとうございます。
すでに2004年ですが、内容は本編と微かにリンクさせてるために2002〜2003年となってしまいました凹
いつもなら一甲の隣でベッタリの鷹介が向かい合わせの席で御節を食べていたのはそういう理由…じゃないですよね(笑)

2004.01.01  朝比奈朋絵 



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