天使のはしご


――― 夢をみた。


俺は暗闇の中、ただ一人何するでもなく佇んでいる。
そこは音もなく光もなく、もちろん匂いもない世界。
自分がどっちを向いているのかもどんどんあやふやになりそうな、闇。

かつてはこういう世界に身を置くことも覚悟していたはずなのに、浅ましくも光を求める自分がいた。

そして。

ふっと浮かんだ鷹介の笑顔。
俺の光のすべては鷹介なのだ。
力強くもあり柔らかくもある光。
凍てついた大地を溶かす強さと、そこから生まれた生命を包み込む柔らかさ。あるいは生命の具現者。
まるで春のようだ、と柄にもないことを考えた自分に苦笑する。

自分も彼に命を与えられたようなものだから。
鷹介のために生きる、と告げたら「自分のために使えよ」と怒られた。いや、悲しませた。
それでも俺は、お前とともに居るためにこの命を使いたい。


目を閉じていても開けていても変わらなかった暗闇に一条の光が射した。
「ようすけ…」
グッと膝に力を込めて足を踏み出す。一歩、また一歩と前に進んでいるはずなのに全く近づけない。
同時に脳裏の鷹介の笑顔も薄れていく。

―― 冗談じゃない。逃すものか!

エゴだと言われるかもしれないが、結局は俺自身が鷹介を手放せないだけだ。
「…ようすけ、ようすけ、…鷹介!」
必死に手を伸ばし、足を踏み出し、声も枯れんばかりに叫ぶ。
徐々に近づく後ろ姿に安堵し、あと少しで触れるというところで光を纏った彼が消えた。

空を切った手は……




「大丈夫かよ、一甲」
空を切ったはずの手は鷹介の手に包み込まれていて。
ようやく夢だったことに気づいた。
「珍しいな、お前がうたた寝してるなんてさ」
ソファに横になっている間に眠ってしまい、あまつさえ夢まで見てたのか…。
深い溜め息をついた俺に上から覗き込んでいた鷹介はイタズラっぽい目を浮かべる。
「オレがどうかした?」
「別に…忘れた」
「ウソツキ。あんなにオレ呼んでたくせに」
…声に出してたのか。迂闊だ。
「なぁ、なんだよ」
俺の身体に乗り上げてにじり寄ってくる鷹介は吐かせる気満々らしい。

考えても考えても言葉にならず、背中に手を回して抱きしめる。
強く強く。
逃しはしない、と。
置いていかないでくれ、と。

「…鷹介…」
たった一言。名前にすべてを込めて。
「鷹介…」

臆病な俺は「離れていくな」とも「愛してる」とも言えないから。

今はこれで許してほしい。


自分の全てを捧げるように、刻み込むように。君にくちづけを送ろう。




 終 





1周年記念SSのはずなんですが…暗め? おかしいなぁ、こんなはずでは…。不器用な一甲は言葉にできない代わりに身体で伝えるようです。あら、大変。

これもよろしかったらお持ち帰りください。その際はメールかBBSにてご連絡お願いします。

2004.09.10  朝比奈朋絵 



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