トラ・トラ・仔トラ


「よく知らない人とお酒飲んじゃダメよ」

鷹介がそう七海に言い含めているのを聞くたびに、ガキじゃあるまいし…と小バカにしていたのだが。

やっとその意味がわかった。
たしかに気のおけない友人以外と一緒の時にコレじゃまずかろう。


「いーっこぉ!もーぉっと笑えよぉ、このムッツリぃ」
何が楽しいのか、ケタケタ笑いっぱなしの鷹介は右腕を俺の首に回し、寄り掛かったまま頬を突いている。
元よりスキンシップの好きなヤツだが今日のは近過ぎるぞ。
高鳴る鼓動よりもわずかに呆れのが勝り、知らず知らずのうちに溜め息をついていた。
「あー、溜め息つくとシアワセが逃げちまうんだぜ、知らないのかよぉ」
「知るか、離れろ」
「一甲、無理よー。寝るまで離れないわ、そうなったら。ね、吼太」
隣に座る仲間に同意を求める七海はニヤニヤと笑っていて、この状況を楽しんでいる。話を振られた吼太も苦笑を浮かべ頷いていることからも今日の生贄は俺らしい。
…まぁ、俺以外にくっついている鷹介など見たくはないのだが。
仕方なく鷹介をぶら下げたまま杯を重ねた。

どれくらい経っただろう、気付けば俺を除く全員が前後不覚の状態に陥っている。忍びたるもの、これくらいの酒で酩酊してどうする。
一際大きな溜め息をついて未だ纏わり付いたままの鷹介に視線を落とす。
「…寝ても離れないではないか…」
膝の上に頭を乗せ、気持ち良さそうに寝息を零す姿に初めて呆れよりときめきが勝り、ドックンと鼓動が跳ねた。
顔を隠す乱れた髪をそっと梳いて、その触り心地の良さと顕れたほんのり赤く染まった項にさらに鼓動が高鳴る。
耳元を擽るように撫でやると、ピクンッ、微かな反応を返してくるのが楽しくてついつい調子に乗ってしまい…。
「ん…、いっこ…?」
「すまん、起こしてしまったな…」
まだ覚醒しきれていない鷹介は酒が抜けて寒いのか、温もりを求めて俺の腰に抱き着いてきた。
「家まで送ろう」
あまり密着されるのは困る。何が困るかは…聞かないでくれ。
理性をかき集めそっと引き剥がし、ジャケットの前をしっかり閉めてやって、ほら、と背中を差し出せばなんの躊躇いもなく身体を預けた。
よほど眠いらしい…。
普段なら「ガキじゃねぇんだよ!」と怒り出すところなのだが。
大人しくしている間に送り届けよう、といつもなら禁じている忍術を使って数度訪れたことのある鷹介の部屋にたどり着いた。


ドサッ

ベッドに腰を下ろし背負っていたでかい荷物を寝かしにかかる。
すんなり剥がれた身体を少しだけ残念に思いながら布団をかけてやろうとした瞬間。
「んん〜…」
首に巻きついてきた腕に引き寄せられ、どさりと覆いかぶさってしまった。油断したつもりはなかったのだが…。
いや、それよりも!
「いっこぉ〜vv」
「おい、起きてるならちゃんと…」
「あったかぁい」
ぐりぐりぐり、と胸元に懐いてくる鷹介を引き剥がそうとした手が中途半端な形でストップする。
まて、そんなつもりはないんだ。ただ送ったら帰るつもりで…。
「くふ…ん、んん〜、いっこぉ…帰っちゃやぁ…」
「眠いのだろう、鷹介」
自分の心にブレーキを、駄々っ子には兄のような情愛を。
「眠くなんかないぃ」
頬を摺り寄せるなぁ!
ブレーキオイルの切れたブレーキなんぞなんの役にも立たず。
上辺だけの肉親(肉親じゃないが)の情は脆くも崩れ去り、ただの欲望だけが目を覚ましそうだ。
お願いだ、これ以上煽らないでくれ。
今まで褒められた恋愛を、いや恋愛すらしてこなかった自分だが、お前だけはちゃんと手順を踏んでいきたいんだ。だから…っ!
「なぁ…いっこぉ……もぉ遅いからぁ…泊まってけ…ってぇ…」
思考ははっきりしてきたらしい。が、頼む!耳元で喋るのはやめろぉ!! 理性が保てん!!
そんな俺の心の叫びは鷹介に届くわけもなく、絡まる腕はさらに拘束を強めた。と同時に合わさった頬が微かに動き唇がふに、と触れる。
かっ、と体温が上昇するのを自覚し眩暈を覚える。
「鷹介…、離してくれ」
なるべく刺激しないよう囁くように懇願すれば当てられた唇が「イヤだ」と告げ、脚を絡められた。
「ねぇ…、いいだろ…ぉ」
鉄壁を誇ってきた理性も鷹介相手では発揮されないのか。ちゃんとお前の気持ちを汲んだ上で事に及びたいのだが、そろそろ我慢も限界かもしれん…。


ぶっちんッ、

はむはむ、と耳たぶを食む感触に加え、ねろり舐る生暖かく柔らかい舌にとうとう限界を超えた。


身体を反転させて組み敷く。
うなじに顔を埋め指を柔らかな髪に絡め抱きこんで。
鷹介の熱い息が額に掛かるのが心地よくて、煽られてさらに離せなくなる。
熱に浮かされたようにがむしゃらに鷹介を求める自分はまだこんな風に誰かを愛せるのだと、安堵と鷹介への愛しさで胸が満たされた。
深く深く口付け、口腔内で暴れる舌に恐る恐る応えてくれる鷹介の身体からカクン、と力が抜けパサリ、背中に回されていた腕が落ちる。
攻めすぎたか、と多少暴走する心と身体を諌めて鷹介を見やれば…。

スー、スー…

なんとも健やかな寝息。
おいおいおいおい、それはないだろーッ!!
なんだ、このお約束な展開はッ!!!!
眠っている相手に手を出すほど落ちぶれていない! 落ちぶれていないがあまりの仕打ちではないか、鷹介…。
この滾る想いをどこへぶつければいいのだ!
「…ん…、い…こぉ……」
幸せそうな寝顔を眺め俺は滂沱の涙を流して一夜を過ごした。


翌朝、清々しく目を覚ました鷹介が俺を見つけて、
「なんでいんの?」
心底不思議そうに尋ねてきたのにどう答えたか正直覚えていない。
ただ、次いつ訪れるかわからないチャンスを逃したことは当分引きずることになった。
そして外で酒を飲まないように、と七海以上に口酸っぱく言うようになったのも想像に難くないだろう。


…いつになったら先にすすめるのだろうか。…一生ムリのような気がしてきた。



 終 





瑞原咲耶サマからいただいた5555HITキリリク『積極的な鷹介、あるいは誘い受鷹介』です。…が!!遅くなったくせに見事リクをはずしていますね、HAHAHA☆ ………すみません、咲耶さま。(平謝り)
えっと…この二人は告白もまだです。互いに好きなのにまだ想いは通じ合ってない。なのに…なのに一甲さんてばいっきにエッチに雪崩れこもうとしたんですか?! まぁ、予想通りのオチで申し訳ないのですが。
こんなのでよければ咲耶さま、お納めください。m(u u)m

2004.11.05  朝比奈朋絵 






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