Don't be afraid. そっと抱き締めると遠慮がちに、しかし安堵した表情を浮かべて身体を預けてくる。 普段の快活さはどこへ身を潜めてしまったのか、と思うほど一甲と二人きりになった時の鷹介は大人しい。 「こうされるのはイヤか?」 「…イヤだったらぶん殴ってでも逃げてるよ」 鷹介は耳朶にくっつけられた唇の感触に戸惑いながらも背中に回した手に力を込めた。 強がっていても小さく震えている肩を一甲は知っている。 恋愛経験の少ない鷹介にとって他人の体温をこんなに密に全身で受けるのは慣れていない。ましてや自分がリードされる立場になるなんて思ってもみなかっただろう。 頬に手を添え、少し上向かせる。瞳を覗き込みながら顔を傾けると静かに目を閉じた。 怯えさせないように唇を軽く触れ合わせてはすぐ離す。数度それを繰り返しゆっくりと押し付けて相手の柔らかな感触を楽しむ。舌先で掃くようになぞれば息を詰めて身体を硬くするのが伝わってきた。 ぎゅっと目を閉じている鷹介を見て、フッと笑みをこぼす。 「何笑ってんだよ」 目尻をうっすらと紅く染め、しかし挑むような目で一甲を見上げた。 「いや、最初は殴られたことを思い出してな」 初めてのキス。 一甲を失わずにすんだ安堵と二度と後悔しないようにと、鷹介から想いを告げた日。 一甲から掠めるような軽いくちづけを与えられた。 心の準備のないままにファーストキスを奪われ、羞恥とパニックに陥り思わず一甲をグーで殴って帰ってきてしまったのだ。 「あれはお前が悪いんだからな」 急にするから。 照れ隠しにブチブチ文句をいうと一甲は己の右頬をさすりながら少し情けない顔をする。 「殴らなくてもいいだろう」 鷹介に殴られたのはカンガルーレットとの戦いの時とこの時だけ。細い腕からは想像できない重いパンチをいただいた。一甲はそれをネタにしばらく一鍬と七海に遊ばれ、吼太からは何かしらの同情をかけられた。 急にするのがダメならば。 「…してもいいか? キス、したい」 熱い吐息とともに吹き込まれる言葉に、鷹介は抗えない。 ビクン、と震える身体はすでに熱を孕みつつあって、鷹介はその熱を伝えようとギュッと革のジャケットを握り締めた。 勝気な瞳は誘うように潤んでいる。 その瞳に吸い寄せられるように、一甲は静かに顔を近づけた。 軽く触れるバードキス。 ちょんちょんと啄ばむそれは時折頬や鼻先、額へと贈られ、鷹介の身体の強張りが解けるまで続いた。 怖がらせないようにと優しく唇を辿る。その濡れた感触にゾクリと背筋が震えた。決してイヤではないソレを受け入れるために薄く開かれる唇。 スルリと潜り込む熱い生き物は閉ざされている白い壁をツンと突つき、難なく突破していく。 思うさま蠢く舌に鷹介の身体は再び強張り、硬く閉じられた眦から涙が零れた。 …まだ、早いか。 ウブな心と身体は鷹介の意思に反して微かな抵抗をみせる。 一甲とて無理強いするつもりはない。 抱きしめられて、キスされることにようやく慣れてきたのだ。これから一つ一つ覚えていけばいい。 ゆっくり時間をかけて慈しんでいきたい、そう思える相手は一甲にとっても初めてで。ここで自分の欲望を押さえ込むことくらい造作もないことだ。 一甲は頭の中で5つ数え、静かにでも少々名残惜しげに唇を離してそっと頬を撫でた。 「一…甲?」 その優しい指の温度に、鷹介は強張りを解き詰めていた息を吐き出す。 鷹介が何か問う前にふわりと抱きしめ、髪を梳く。 「…なんで止めんだよ」 髪を梳かれる心地よさにうっとりしながらも不満げに唇を尖らせて拗ねた表情を浮かべた。 子ども扱いすんな、と小さく洩らす言葉に苦笑しつつ襟足をくすぐるように撫でると、微かに甘い吐息を零す。 「ゆっくり進めばいい」 焦る必要はないのだ、と。 ずっと傍にいる、と。 二人の時間はまだ始まったばかり。 終
お初へのカウントダウンの始まりです。 お子ちゃま鷹介に一甲の理性はどこまでもつのでしょうか。 そして私は一体どこへ行きたいのだろう…凹 2004.01.22 朝比奈朋絵
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