カラフルマリッジ -ゴールドラッシュ-


陽射しも暖かな日曜日の午前中。
前夜の営みのせいで気怠い身体はなかなか動いてはくれなくて。普段なら「修行に行くぞ」と有無を言わせず叩き起こす恋人も、胸に擦り寄り惰眠を貧る自分を許してくれている。
まぁ動けない原因を作った自覚はあるらしい。

「まだ寝るのか?」
もぞ、と小さく身動いで体勢を変えた途端声がかかった。
パチッと目を開けて上目遣いに見上げれば苦笑を浮かべた顔。枕代わりになっていた腕がさわさわと髪を撫でてくれて気持ちイイ。
くふん、と満足げな吐息をひとつ吐いて更に擦り寄れば「一日中こうしてるのもいいが…」と一甲らしからぬ言葉が降ってきた。
常に自らを厳しく律している彼がそんなこと言うなんて珍しくて、思わず身体を離してマジマジと見つめてしまう。
するとくつくつと肩を震わせて笑っていた。
「冗談だ…飯作ってくるからあと少し寝てていいぞ」
ふわりとシーツに流れ込んできた冷たい空気に喪失感が増幅して、無意識に一甲の手を掴んでしまった。
「鷹介?」
「オレも起きる!」
一緒に作ろうぜ、と言えば「できるのか?」なんて呟きやがった。
文句のひとつでも言ってやろうとした瞬間、シーツを頭から被せられ、額に触れるだけのキス。
「ちゃんと着ろ。風邪をひく。それに」
そんな恰好でいられたら飯どころではない。
部屋を出る間際に聞こえた言葉にガバッとシーツで全身を隠した。


悲鳴を上げるソコを宥めすかし、服を着て台所を覗けばトントンとリズミカルな音とダシのいい匂いが立ち込めていて。
「具、なに?」
背中に纏わり付いて手元を見遣る。
「ブロッコリーと人参とサツマイモと切り干し大根」
抱き着いたままのオレに渡されたのは均等のサイズにカットされた切り干し大根以外の野菜たち。どうやらみそ汁を任してもらえたらしい。
すでに一甲は冷蔵庫から秋鮭の切り身を取り出して下味をつけていた。
その手際のよさにいつもながら感心する。
一甲っていいお嫁さんになるよ。
とウェディングドレス姿の一甲を想像して噴き出した。ぜってぇ似合わねぇ!
「何笑ってる?」
すぐ隣で鮭を焼き始めた一甲が訝しげに見る。その顔が薄いベールに覆われているように見えて…、自分の想像力のたくましさが恨めしい。ますます笑いの止まらなくなったオレを一甲は抱き込んで唇を塞いだ。
驚きはしたものの拒む理由はなくて、生暖かく濡れた感触を受け入れる。
戯れ程度だと思ったのに、なんとなく互いに引き際を量りかねて、少しずつ深くなっていく口づけに溺れていき…。
「…ん?ぅん〜ッ!」
離せ、一甲!
抵抗するのが許せないのか、一層強く拘束を強めるバカに怒りの鉄拳…じゃなくて呆れの金攻撃!
「ふぐぅッ…っな、に…を」
「焦げちゃってんじゃんかーッ!」
真っ黒に炭化した鮭。大好物なのにー!
ぎゃあぎゃあいいながら炭になってしまった鮭と網を悪戦苦闘しながら片付ける。
油断しきっていたところに急所攻撃を受けた一甲が床に転がっていたのにきづいたのはしばらく経ってのことだった。


「使い物にならなくなったらお前も困るだろう」
とんとんと自分の腰を叩きながらそう低く呟いて、ゆらりと立ち上がった一甲にお姫様抱っこされてベッドに逆戻り。
「ちゃんと機能するか試させてもらうからな。責任持てよ」


そして今度こそ冗談なしに一日中寝込むハメとなったとさ。
…これってオレが悪いのか??




 終 





当初の予定と大幅に違うものが出来上がってしまい、捨てるのももったいない、ということでアップしてみました。一応…新婚シリーズなのかな、これって。


2004.12.08  朝比奈朋絵 








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