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鷹介が明るい。
賑やかくて、バカなことやって、すぐ熱くなって。
何も変わってないように見えた。
しかし、ふとした時に翳りが瞳に浮かぶ。
七海と吼太がそれを見逃すわけがなかった。

今日も一甲はこなかった。正しくは来られなかったのだが。
一甲の姿がないことに、一瞬鷹介は不安と安堵の入り混じった眼をして戦いに挑む。
戦闘が始まればいつものように、突っ走り気味ながらも先陣切って斬り込んでいくのだが、ちょっとした隙が生まれることがある。声を掛けようとした先に一甲の姿がなかった時。敵はその僅かな隙をついて攻撃を仕掛けてくるから、最近の鷹介は怪我が絶えないのだ。
「鷹介っ!」
目の前にある黄色い背中に、庇われたことを知った。
「あっ…!」
「ここはいいから、早く倒せ!」
とにかく目の前にいる敵を、と再び戦いに没頭する。

「吼太、さっきはごめん」
いつもなら「ありがとな」と言うところを「ごめん」と言ったということは、自分に非があると自覚している証拠である。素直に頭を下げる姿はしょげた仔犬を髣髴とさせ、怒る気も失せる。といってももともと怒る気など吼太にはなかったのだが。ただ、心配なだけだ。
「戦いのときは常に冷静に、気を張り詰めてだなぁ」
「…はぁい」
「それより、お腹すいたーっ!」
「じゃあラーメン喰いに行こうぜ!」
「えー、またラーメン〜?」
ぎゃいぎゃい騒いでる中、一鍬が静かにその場を後にする。
去り行く一鍬の背中を鷹介は一瞬だけ複雑そうな顔をして見遣った。


「鷹介、ちょっといい?」
おぼろ研究所に泊まっていくことの多くなった彼らにはそれぞれ部屋が与えられている。
小さくノックされて扉を開けるとイルカのぬいぐるみを抱えた七海が立っていた。
「どうしたんだよ」
個人の部屋を訪ねてくることは珍しい。たいていメインルームで話し合うからだ。
不思議に思いながらも鷹介は七海を部屋に通す。
七海はベッドに腰掛け、鷹介はその足元にあぐらをかいて座った。
「鷹介。最近ヘン」
前置きもなく、いきなり会話を切り出す七海に苦笑して見上げるが、真剣な表情を見て鷹介も顔つきをかえる。
「今日だけじゃない。この前もマゲラッパなんかにやられちゃって。鷹介らしくないよ」
その言葉に、まだ傷の癒えていない右腕を押さえた。
「別に、ちょっと疲れてるだけだって」
「ウソつかないで。…一甲のことじゃないの?」
ピクン、と肩が震える。それを見た七海は小さく溜息を吐いた。
「1人で抱え込まないでよ。そりゃ言いづらいこともあると思うけど」
「七海…」
周りに心配をかけてることに胸が痛むが、今鷹介を苛んでいるのはあくまで個人的な感情なので言い出せずにいる。七海は鷹介の想いを知っているから、こうやって部屋に来て話を聞いてくれようとしてくれてるのだけど…。
「そんなに頼りない?」
話さないで心配をかけるのと、話さないことで心配をかけるのとどちらがいいのだろう。
「そんなんじゃねぇよ。でも、さ。…きっと言ったら怒るぜ、七海」
「怒るようなこと考えてるんだ」
じゃ尚更吐かせないとね、と微笑む七海になんとなく話してもいいのかもと思った。

一甲を好きだと認めてから、自分が変わってしまいそうで怖いこと。
一甲に依存して、弱くなってしまいそうで怖いこと。
戦いに専念できなくなることの不安。
そんな自分に見切りをつけられることの不安。
そして、そんな自分がイヤで、一甲への想いを断ち切ろうとしていること。

鷹介の中でも整理できていないので、要領の悪い話し方になってしまったが、七海は根気よく聞いていた。…途中までは。
「もーっ!! どうしちゃったのよ、鷹介! ウジウジ悩んでるなんて鷹介らしくないでしょ! とっくに告ってると思ったのに!!」
七海はどうやら告白して振られたんだと思っていたらしい。抱いていたイルカで鷹介を叩きながら怒鳴る。七海からぬいぐるみを奪うことでイルカ攻撃を回避した鷹介が今度はイルカを抱きしめる。
「やっぱり怒ったじゃねぇか!ていうか勝手に振られたって思ってたのかよ!」
「なにが『怖い』よ! 変わってなにが悪いの? 結局弱虫なのよ、鷹介は!」
「誰が弱虫だって?」
「あんたよ、あんた。所詮そんなに一甲のこと好きじゃなかったのね。だから簡単に諦められるんでしょ」
せせら笑うように言う七海に、鷹介がキレた。
「好きだよ! めちゃくちゃ好きだ!! 簡単に諦められねぇから悩んでんだろ!」
「じゃ、諦めなきゃいいの」
一転して静かに、でも逃げを許さない表情になる。
「変わるのは悪いことじゃないと思う。変わらないかもしれないしね。それに依存じゃなくて支えあえばいいのよ?頼るのと依存は違うことくらい鷹介だってわかるでしょ? 当たって砕けろ、は鷹介のモットーじゃなかったの?」
誰かを思うことが強さになることもあるんだよ、とキレイに笑う七海を見て、妙に納得してしまう。
きっと七海自身、一鍬を想うことで強くなり優しくなっているのだろう。
そう思ったら、胸につかえていたものがすっと溶けてなくなった。
「…また助けられちゃったな」
「別に、困ったときはお互い様って言うでしょ」
エヘヘ、と笑いながら鷹介はイルカを七海に返した。
コンコンコン、とノックの音がして2人揃って振り返る。
そこには呆れた顔のおぼろと引きつった苦笑いを浮かべた吼太が立っていた。
「あんなぁ、あんたら。何時やと思っとんのや」
「お、お、おぼろさん?! 吼太?!」
いつから聞いていたのだろう、とパニック状態の鷹介をよそに七海はごめんなさーいと朗らかに謝っている。
「ごめん、鷹介。…聞こえちゃった」
「あんなん聞いてくれ言うてるもんやろ。それにしても鷹介が一甲ちゃんのこと好きやったとはねぇ」
ええんちゃう?お似合いやと思うで?と笑うおぼろは明らかに楽しんでいる。
吼太も「鷹介がそれでいいのなら」と肩を叩きながら言う。
誰も否定も拒絶も侮蔑もせず、鷹介の想いを受け入れていた。
鷹介はそれだけでもシアワセだと感じ、小さく「ありがと」と呟く。


この想いを信じて
躊躇いも戸惑いもすべて乗り越えて
あるがままを受け入れてもいいのかも。




 終 





一応これにて『鷹介の苦悩編』終了です。シリアスになってるんだか…(-_-;) 
ところで甲鷹のわりに一甲が全然でてきません。ヤバイッ!! 一甲視点のお話も書かなきゃ。



2003. 9.24 朝比奈 朋絵 




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