はじめの一歩 「じゃあな、鷹介」 彼の名が思った以上に口触りのいいことに気づき、顔が緩んだ。その後ろで一鍬が何か言いたげな顔をしていたが気にしないふりをする。 それ以来鷹介は以前にも増して纏わりつくようになったのだが、依然取り付く島のない俺の態度に憤慨する回数が増えた。 今日も運悪く同じ現場となってしまったのだが、鷹介はめげるということを知らないのだろうか、懲りずに俺の後ろをついて回っている。 「なんだよ、その態度! この前は優しかったのにさ!」 思いがけない言葉に思わず振り向いてしまった。優しかった?俺が? 「あ、やっと振り向いた。雷撃斬のデータ、一甲だろ?よく考えりゃ、疾風に雷関係のデータがあるわけないもんな」 そういってニッコリ笑う顔が愛しくて。 「なんのことか知らんな」 再び前を向いてうそぶく。 鷹介はそんな俺に駆け寄り、背中をバシッと叩いた。…お前、わざと強く叩いただろ。 「隠すなって。ホント、サンキュ。あん時もうだめかもってマジで思ったからさ」 睨むように見下ろすが全く気にしていない彼に少し、気色ばむだけ無駄だと悟りため息を吐く。 俺のその態度が気に障ったのか、ニコニコ笑っていた顔が急にむくれた。おもしろい。 「ったく一甲ってばすぐ人見下すけど、それよくないぞ? すっげムカツク」 プリプリ怒っている姿は全然怖くなく、むしろ可愛らしくてたまらない。こいつは本当に20歳前後の男なのだろうか。一鍬も女のような容姿をしているが、弟は美人の部類に入る(のだろう。俺にはよくわからん)。 無意識のうちに鷹介の頭を撫でていた。さらさらと指の間を滑る髪が気持ちいい。 とたんに鷹介は俺の手を振り払い「子ども扱いすんじゃねーっ!!」と駆け出していってしまった。 振り払われた手と鷹介が走り去っていった方向を眺めつつ、しばらくボーっとしていると不意に背後に気配を感じた。 振り向くと肩を揺らしながら笑いを堪えている弟の姿。 「…一鍬」 「随分と可愛らしいことをしてるじゃないか、兄者」 なかなか笑いを収めない弟を一睨みするが堪えた様子はない。むしろ腹を抱えて笑い出した。 「さっさと仕事しろ」 そう言うのが精一杯な俺に、一鍬はとことんからかうと決めたらしくニヤニヤしながら着いてくる。 「兄者、最近いやに楽しそうだな。人間味もでてきたし」 明らかに楽しんでいる口調なのが憎たらしい。 「…何が言いたい」 「別に。俺は兄者がどうしようが個人的な問題には首を突っ込む気はない」 「ならば…」 「兄者、ひねくれ者は嫌われるぞ。公私混同しなければ俺はいいと思うが」 腰をドンと殴り、一鍬はヘルメットをクルクル回しながら歩いていってしまった。 鷹介への気持ちに気づき、あいつなりに応援する気でいるらしい。 想いを告げていいのだろうか。とりあえずしばらくは様子見だな。 チョコチョコと動き回る鷹介を見遣り、小さく微笑んだ。今は隣にいられるだけでいい。 「仲間」として一緒にいられるだけで。 「兄者は本当に堅物だから手が焼ける。鷹介の事が気になって仕方ないって顔してるくせに。俺がしっかり後押ししてやらなきゃな」 お兄ちゃん子一鍬が笑いたそうな、泣きそうな複雑な顔をして呟いているのを現場のおっちゃんたちが不気味そうな顔で見ていたことは一甲も一鍬も知らない。 そして大口を叩く一鍬が今後七海相手にあたふたすることもまだ誰も考えもつかなかった。 終
一甲もようやく一歩前進、ってところです。亀の歩みよりも進みの遅いカップルだ。 いつになったらラブラブSSが書けるんだろう。自分でイライラしてきちゃいました(笑)←ダメじゃん 一鍬が出張ってるなぁ。恋愛したことないくせに(爆) 2003.10. 9 朝比奈朋絵
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