真夏の記憶



永い永い冬を越え草木が芽吹くように、自分の中でも小さく確実に育つ感情を感じていた。
それは今まで生きてきて感じたことのないもので。温かくてくすぐったい。
いわゆる恋心≠ニいわれるものなのだが。
相手はつい最近まで敵対していた対立流派の人間。
馴れ合うことに抵抗を感じてもおかしくはないだろう。一鍬は敵意丸出しで、はなからハリケンジャーと共に行動するのを拒絶するそぶりを見せる。
しばらくは己の感情は二の次にせざるを得ないだろう。


いつもどおり現場へ向かいタイムカードを押す。あくびを噛み殺しながら作業工程を確認して仕事を始めた視界の隅で、現場監督が新人を連れてくるのが見えた。
長めの茶色の髪、力仕事には向かない華奢な体型、人懐っこそうな笑顔とオーラ。紛れもなく椎名鷹介。
正直うろたえた。自分の感情を殺す決心をしたばかりなのだ。
今日一日無表情決定だな。ただでさえ職場のオヤジどもから「無愛想」だの「もっと笑え」と言われているというのに…。
彼の存在を意識からシャットアウトして麻袋を担ぐが、すぐに発見されてしまった。
「あー、一甲! 同じ所なんて奇遇だな。今日弟と一緒じゃねぇのか?」
ブンブンピョコピョコと耳と尻尾が見えるのは気のせいだろうか。満面の笑みで近寄ってきた。
…心臓に悪いぞ、その笑顔は。
「なぁ、お前たちどこ住んでるんだ?」
教えたら遊びに来るつもりだろう。俺の理性が保てなくなるからやめてくれ。
「一甲っていくつ? 星座は? 血液型は?」
そんなこと知ってどうするんだ、鷹介。
「俺はふたご座のB型。知的でナイーブなオレにぴったりだろ?」
…お前には今度辞書を進呈してやる。ちゃんと意味を知ってから使え。
矢継ぎ早に繰り出される質問はすべて黙殺し「働け」と一言告げる。威圧的に。残念だが俺は優しく声をかける、なんて芸当はできはしないからだ。
その態度に鷹介の負けん気に火をつけたのか、2つ、3つと余計に袋を運び出した。
ふふん、と勝ち誇った笑みを浮かべる鷹介が可愛らしく思えたが黙って負けるつもりもなく、彼より多く麻袋を担ぎ上げ作業を続ける。
「くっそー!」とさらに競争心を募らせ走り出す鷹介に苦笑を禁じえなかったが。
あの負けん気の強さ、瞳の強さは気に入っているのだ。それが見たくてわざと キャンキャンと噛み付いてくる仔犬をあしらうように、あるいは挑発めいた言葉を投げかける。

強気なことを言っても考えなしの攻撃や隙だらけな点は明らかで、つい厭味たっぷりで鷹介に応戦してしまった。結果、殴られるハメになったのだが。
殴られた痛みよりも、憎々しげに名を呼ばれたことのほうが堪える。そう思った自分はかなり重症のようだ。戦いに私情は挟まない、と誓ったばかりだというのに。
一鍬から顔をそらし、自嘲気味に笑う。

ジャカンジャが再び出現し、その戦いの中で鷹介の強さ、心の強さをまざまざと見せつけられた。これからのゴウライジャーの在り方、覚悟が定まってなかったのは自分だ。
なぜ鷹介がハリケンジャーとして選ばれたのか、自分がこうも惹かれるのかがわかったような気がする。彼の放つ光に憧れていたのかもしれない。光に憧れる自分はやはり闇なのだ、と再度自覚した。
闇ならば闇らしく光を支え続けていこう。
そう思い転送した雷撃斬のデータ。
自分が送ったと気づかれなくていい。ただ、彼の役に立てれば。
柄にもなく殊勝なことを考えてる自分がおかしくて、小さく笑った。


「じゃあな、鷹介」


初めて名を呼んだことに、お前は気づくだろうか。





 終 





思いっきり20話に沿って書いてます。19話・20話あたりが一甲さん自覚の時期じゃないかと思いまして。やっぱり甲鷹スキーとしては「じゃあな、鷹介」は外せません。


2003.10.03  朝比奈朋絵 





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