網膜の誘惑


七海に遊ばれた翌日、最近大人しくなっていたジャカンジャが現れた。
「鷹介、七海、吼太。急いで現場行って!」
ジャイロから響く声に返事をしながら、鷹介は盛大にため息をつく。
今が派遣先の仕事中であること。いつものこととは言え、職場放棄するのはやはり気が咎める。
それともう一つ。
「一甲…くるよな、やっぱ」
昨日の今日でまともに顔を見れる自信のない鷹介は、ひとまずこの仕事先から抜け出す口実を一生懸命考えるのだった。

「遅かったじゃ〜ん、ハリケンレッド〜」
まだゴウライジャーが来てない事にホッとしながらも、いつもながらに緊張感の欠片も感じないサタラクラに余裕のない鷹介がカッとなった。
「うるさい、サタラクラ!覚悟しやがれ!!」
素早くチェンジするとハヤテ丸を構えて突進する。ひょいひょい、と避けては小バカにしたように笑う。そしてサタラクラの挑発に乗るようにどんどん人気のない方へと走っていってしまう。
「鷹介!ムチャするな!!」
七海と吼太は大量のマゲラッパに囲まれて身動きが取れず、気づけばサタラクラと鷹介はいなくなっていた。

キンッ!
刀の音が響き弾き飛ばされる。背中に衝撃を受け、一瞬息が止まった。
「ダ〜ッハッハッハッハ! 弱いよ、弱いよ〜。どうしちゃったの〜?」
「くっそ〜っ!!」
再びハヤテ丸を手にとり、身構えるがなかなか隙が見当たらない。
ジリジリと間合いを取りながら攻撃のチャンスを狙う。
「鷹介っ!」
ビクンッ、と鷹介の身体が固まる。紅い雷とともに現れた一甲に気を取られて一瞬鷹介に油断ができたのだ。
それを見逃すサタラクラではなく鷹介に向かって光を放つ。がそれが鷹介に当たることはなく、すべて弾かれる。
「余所見するヤツがあるか!」
鷹介を後ろに庇いながらも視線はサタラクラを見据えている。
「ホーンブレイカー打った直後を狙え」
気の張り詰めた低い声が今の状況を思い出させ鷹介も構えに入った。
ゆっくり頷くと静かに深呼吸を繰り返す。そして2人の呼気がそろった瞬間。
「ホーンブレイカーッ!!」
一甲の声と同時に鷹介がサタラクラへと突進する。サタラクラが怯んだ隙に懐へ入り込み、一気に片をつけるつもりだった。
「甘いな〜レッドちゃ〜ん」
爆風の向こうからあがる余裕の声に作戦の失敗を知る。
「チッ!」
地面を蹴ってサタラクラから離れようとしたが、間合いを詰められてしまった。目の前にサタラクラの仮面が迫る。
「レッドちゃ〜ん、全然集中してないよ〜。おかし〜な〜?何でかな〜?」
攻撃をギリギリのところで受け止めたが、嘲る態度のサタラクラに鷹介がキレた。ギンッと睨みつける。
「うるせぇ!」
「鷹介!」
またもやビクンと身体が震えるのをサタラクラが気づいた。ふ〜ん、と何か企むように鷹介と一甲を見比べると更に楽しそうに笑う。
「な〜んかあったのかな〜、レッドちゃ〜〜ん。様子がヘンよ〜?」
ふざけている割に観察眼の鋭いサタラクラに小さく舌打ちすると、サタラクラはフンッと力を込めて鷹介を弾き飛ばした。
そして…
「レッドちゃ〜ん」
呼ばれた瞬間視線を捕らえられ、脳に声が響き始める。
「…………」
パチン。
指を鳴らす音がすると、サタラクラの姿が消えて後には笑い声だけが響いた。
「鷹介!」
その場に崩れ落ちる鷹介を抱きかかえ、頬を軽く叩きながら全身に目を走らせた。目立つ外傷がないことに一安心するも目覚めない鷹介に不安が募る。
逃げたサタラクラを追うよりも朧に見せるほうが先決と、グッと抱く肩に力を込めたその時。

ピク、

震えるまぶたを見逃さず再び鷹介の名を呼ぶ。
額にかかる髪をかき上げ、早く目を覚ませと念じながら顔を覗き込む。
「…鷹介…」
ゆっくり、うっすらと開かれる瞳。
焦点の合っていないその目は虚空を見つめていて、一甲を映し出さない。その様子に胸騒ぎを覚え、頬に手を添えて自分のほうへと顔を傾けさせた。
「大丈夫か?…鷹介?」
鷹介の瞳に映るぼんやりとした影が徐々に輪郭を捉えて一甲と認識したのは一瞬。その直後激しい頭痛が鷹介を襲った。
「うぁっ!!」
「鷹介っ!」
一甲の腕を振り払い転げ回る。一甲はそんな鷹介を四肢を使い強く抱え込んだ。
痛みは長く続かなかったようで、じきに大人しくなったのだが何か異変を感じる。鷹介を包みこむ空気が一変した。
「まだどこか痛いか?」
腕の力を緩め、こめかみに指を這わせ上向かせる。

「…いっこぉ」

顔を辿る指を唇に引き寄せ、かぷり、と咥えたかと思うと舌を絡めてきた。
「鷹介?」
柔らかな唇の弾力と濡れた舌、時折当たる硬い歯。そして指先を含みながら上目遣いに見上げてきた鷹介にしばし言葉を奪われる。
ちゅ、ちゅ…と漏れる音とは別に頭の中で警鐘が鳴り響いた。


――コレハ、ダレダ。






 続く 





こんなところで区切るなーっ!!とお叱りの声が聞こえます。←なら書け。
えー、なかなか進まないカウントダウンシリーズ第4弾。今までのおちゃらけムードから一転してちょっぴり戦闘シーンなんかも入れてみました。もう二度と戦闘シーンは書きません(宣言)
本当は吼太編の予定が、サタラクラのせいで大幅変更を余儀なくされました。次こそ吼太を!…だせるといいな…。


2004.03.01  朝比奈朋絵 


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