悩める青少年 ゴンッ ざわついていた店内が水を打ったように静まり返り、人々の好奇の目があるテーブルへと集まった。 「大丈夫かよ、一鍬」 女性客が大半を占めるこの店は、小ぶりだがおいしいケーキが評判で。 キャラクターに似合わず甘いモノが好きだと七海から情報を仕入れた鷹介は、休みでゴロゴロしていた一鍬を呼び出しムリヤリ連れてきたのだ。 男2人というだけでも目立つのに、それに加えて人目を引く風貌が故に客も店員も彼らの方をチラチラと伺っていた。 背中にクワガタを背負った青年が鬱陶しそうな顔で一言二言何かを喋るのに対し、赤いジャケットを着た少年は頬を紅潮させながら時折言いづらそうにモジモジするも、必死に訴えかけている。しばらく俯いて顔を真っ赤にしていたのだが、やがて意を決したように目の前の青年を見上げた。 そのシチュエーションだけで周囲の女性陣の好奇心を煽っていたのだったが、その後少年から発せられた言葉に声のない悲鳴を上げた。 「男同士ってどうヤるんだ?」 そして冒頭に戻る。 先日兄が疲労と幸福の入り混じった表情で帰ってきた。 てっきり鷹介と一戦交えてきたのだと思っていた一鍬にとって、この質問は予想外。 研究所でもどこでも、周りが呆れかえるほどのイチャつきをしてるくせに肝心なことはまだとは。 偶然だが2人が口付けを交わしているのを見たことがある。軽いものではないキスを。 (兄者もよく我慢していられる) いろいろツッコんでやりたいのは山々なのだが、周りの視線が痛くて一鍬は顔が上げられない。 この弟、意外にも羞恥心を持ち合わせているらしい。 「なぁ一鍬」 なかなか顔を上げない一鍬に焦れてゆさゆさと肩を揺する。 「どうすればいいんだよぉ」 忍風館に入る前は普通に生活してただろう鷹介の方が周りの目を気にしていない。たぶん今はこの悩みでいっぱいいっぱいなのだろう。 周囲の好奇に晒されるのはもう勘弁、と一鍬は皿に残っていたケーキを一口で食べ、紅茶を飲み干すと同時に伝票と鷹介の腕を引っつかみ店を後にした。 彼らの去った後の店内がよからぬ想像で溢れていたことは余談として記しておく。 「一鍬?! ちょ、ちょっと! どこまで行くんだよ!!」 離せって!と手を振り払ってようやく一鍬の足も止まった。 夕暮れ時の公園は人も少なく、とりあえずは続きを話すのに支障はない。 「貴様、恥ずかしくはないのか」 レシートを押し付けながら、金をよこせと請求する。鷹介が自分の分の金を渡すと「俺の分もだ」とさも当然のように言い放った。 「なんでお前の分まで払わなきゃなんねぇんだよ!」 「呼び出したのはお前だろう。それくらい当然だ」 「今月ピンチだから勘弁して、ね?」 手を合わせて小首を傾げ、上目遣いは鷹介のおねだりポーズである。が、これは一甲と吼太しか通用しない。 「問答無用」 一言言い捨てて、さっさと鷹介の財布を奪って抜き取る。傍から見たらカツアゲのようなのだが、幸い誰もいないので警察に通報されることはなかった。 「うわーっ、一鍬のバカーッ!! 何すんだよ、返せーっ!」 「うるさい。で、何なんだ、さっきのは」 これ以上喚かれるのも鬱陶しいので話を本題に戻す。この話題だって進んでしたいものではないのだが…。 「あ、…うんと。…そーゆーこと」 「鷹介、その…まだ、なのか?」 話を振った途端、またもや口篭り少し頬を染めて俯いてしまった。 そんな反応をされると聞いたこっちも恥ずかしくなる、と一鍬も目を泳がせて口元を覆いながら問う。 「キス、はしてくれるんだ。でも…オレ、その後どうしたらいいかわかんなくって、一甲も遠慮してるみたいだし…」 キスの感触を思い出したのか、唇に触れながら更に顔を赤らめて話す。 ふと、一鍬は疑問を感じた。 「疾風では閨房術は習わないのか?」 「? なんだソレ?」 一鍬は大きなため息を吐く。よかったのか悪かったのか…。 「なぁ一鍬、どうしたらいいんだ?」 「俺に聞くな。兄者に聞けばいいだろう」 2人の問題なのだ。ましてやそんな込み入った状況の話なら尚更。 「だって…恥ずかしいじゃん。そんなことも知らないのかってまた笑われちゃうよ」 兄者は笑うどころか感激するだろう、と一鍬は胸の中で吐き捨てもう一度ため息を吐いた。 なぜ自分がこんな思いをしなけらばならないのだろう、これでは相談というよりノロケではないか…。 疲れた…。 「帰る」 だんだんバカバカしくなってきた一鍬はくるっと踵を返して立ち去ろうとした。 慌てたのは鷹介である。 「いっ、一鍬っ!待てよ!! 教えてくれってば! これじゃ食い逃げだろ!!」 腕に縋り付いて必死に留めようとする。 一方「食い逃げ」呼ばわりされた一鍬はバッと振り返り鷹介を睨みつけた。 「明日だ! 明日でいいだろう!! とにかく帰る」 「絶対だぞ! 明日だかんな!」 約束守んなきゃケーキ代返してもらうからな!と噛み付きそうな勢いの鷹介の額をぐいぐい押し返して腕を解放させると蒼い雷とともに消え去ってしまった。 「チックショー!! 一鍬のバカヤローッ!!」 鷹介の元からどうにか逃げ出した一鍬はフラフラと商店街をさまよい歩いていた。 なんとなくすぐに家に帰る気にはなれない。兄の幸せボケした顔を見たくないのだ。 「あれー? 一鍬?」 後ろから聞きなれた声の主は。 「…七海」 ほのかに思いを寄せる相手で。荒んだ心が癒される気分になる。 どうやら七海は商店街でのキャンペーンの下見に来ていたらしい。 「どうしたの、こんなところで。…なんか疲れてる?」 「いや、大丈夫だ。ちょっと鷹介に呼び出されてな」 惚れた女に弱いところは見せられない。そんな虚勢が一鍬の顔を引き締めさせた。 「鷹介? あ!このごろなんか悩んでたよね。なんだったの?どうせ一甲絡みだと思うけど」 相談内容など女性に教えられるものではない。いくら鷹介と一甲の関係を知っていたとしてもだ。 「あ、う…いや…」 「何?はっきりしなさいよー」 バシッと背中を叩いてニッコリ笑っている。笑っているが目だけは笑っていない。 鷹介の名誉(?)と七海への配慮のために黙っていようと思ったが、それもどこまで持つことやら。 忍びとして拷問に耐える術は身に付けていても、好きな女にはそれが通用しないことをはじめて知った一鍬だった。 終
進んだのか?進んでいないぞ…。一甲出てきてないし。 結局一鍬は七海に吐かされたようです。さて、どうなる鷹介(笑) 2004.01.26 朝比奈朋絵
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