一生分の奇跡 おまけ

「おっかえりー」
おぼろ研究所のメインルームには七海一人。どこかしら嬉々とした様子なのは気のせいだろうか。
「た、ただいま。みんなは?」
「もう休んでるよ。吼太も今日は泊まってくって」
「ふーん。で、どうしたんだよ、七海」
さっきからニヤニヤしているのが気味悪い、とは怖くて言えない。
何か自分に用があるのはわかったのだが…。
「ねねね、どうなったの?」
(あの、目が輝いてますよ、七海さん?)
七海の言っている内容がわからず、迫力負けした鷹介は苦笑いを浮かべ一歩後退った。
「んもぉ、一甲と上手くいったかって聞いてんの!」
「はぁっ?!」
酸欠の金魚のように口をパクパクさせている鷹介の肩をガシッと掴み、七海はにこやかな笑顔を浮かべたまま顔を近づけてきた。
鷹介の背筋をイヤ〜な汗が流れる。
「どっちから告ったの? 鷹介? 一甲?」
「ちょ、ちょっ! なななな何言ってんだよ、七海!!」
「まさか、せっかく2人っきりにしてあげたのに何もなかったなんて言わないわよね?」
屋台を出てからしばらくして3人がいなくなったのは気づいてたが、まさか七海の仕業だったとは思いもしなかった。彼女なりの配慮だったらしい。
「え〜と、…んと…」
「はっきり言いなさいよ」
「っつかさ、何で七海に報告しなきゃなんないんだよっ!」
「よき理解者だから♪」
…ただ単に楽しんでるだけじゃん…
がっくりと肩を落とし、鷹介は心の中で呟いた。こうなったら七海に逆らうのはムリだと経験から知っている。
確かに相談に乗ってもらったり励ましてもらったのだから、報告する義務はあるのかも。
そう結論づけて鷹介は腹をくくった。
「…告白…しました」
小さな声で、なぜかですます調になっている。
俯いているが首元まで真っ赤になり照れていることは一目瞭然で。
(鷹介、ホント女の子みたい)
なんて思ったのはナイショのこと。
「やるじゃん! で、一甲はなんて?もちろんOKなんでしょ?」
「も〜〜っ!! いいだろ! んなこと言えるかっ!」
「いいじゃない、減るもんじゃなし」
「減るのっ!」
「何が減るのよ〜」
ぎゃいぎゃい騒いでいると、いきなり鷹介が黙り込んでしまった。
さっきまで怒りながらもどこか幸せそうだった表情から一転、青ざめて目には涙が溜まっている。
「鷹介?! どうしたの?」
さすがの七海もこの変化には驚き、慌てて鷹介の顔を覗き込んだ。すっかりお姉さんの顔になっている。
「…オレ、一甲に嫌われたかも…」
「は? どういうこと? だって一甲だって鷹介のこと…」
「七海ぃ〜、どうしよう〜〜」
「ちゃんと説明してよ。どうして一甲が鷹介を嫌うの?」
涙を懸命に堪えてる姿は、七海でもギュッと抱き締めたくなるほど健気で思わず頭を撫でてしまった。いつもなら「子ども扱いすんなよ」と手を振り払うのに、今日はされるがまま。よっぽどのことがあったらしい。
「…殴っちゃった…」
「え?」
「だから、殴っちゃった」
「…誰を?」
「一甲に決まってんだろ」
どうして思いを告げて、しかも好きな相手を殴るなんてことになるのか。七海も軽いパニックに陥った。
「なんでっ?!」
……キス、するんだもん……
「はい?」
一瞬脳が拒否をした。今、鷹介は何と言った??
「だから…、急にキスするから…」
(…あの男、手ぇ早すぎよ)
「驚いちゃって、…思わず…。で、走って帰ってきちゃったんだ。…やっぱ嫌われちゃったよな」
シュン、と耳と尻尾がついてたら間違いなく垂れ下がってるであろう状態に、七海も同情を禁じえない。
「ま、そんなことくらいでキライになったりしないでしょ。気にしすぎなのよ、鷹介は」
あまりそんなこと≠ナはないと思うのだが、七海の根拠のない「大丈夫、大丈夫。よゆぽんよ♪」に慰められたようだ。こんな単純なのも鷹介の長所である。
「明日一甲に謝ってくるよ。ありがとな、七海」
「ケーキでいいわよ〜♪」
手をヒラヒラさせながらオヤスミ、と部屋を出て行く七海に鷹介はもう一度サンキュと呟く。






一方霞家。
「………」
「………」
「………兄者」
「………」
「……鷹介に何をしたんだ」
「……別に、何も」
「…何もしてないなら何なのだ、この痣は」
「触るなっ! …お前には関係ない」
「ほぉ。まぁいいが」
「………」
「いきなり押し倒して殴られたのかと思った」(ニヤリ)
「うるさいっ!」
「兄者も堪え性がないな」
「黙れ、一鍬!」
「さて、先に休むとするか。ちゃんと冷やさないと二枚目≠ェ台無しだぞ、兄者」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
兄で遊べる日がくるとはな、と笑いながら一鍬は空を見上げた。

丸い丸い月が柔らかな光を放って輝いている。

月に翻弄された命はその呪縛を解き放たれた。
これから始まるこの不器用な恋を見守っててくれ、と静かに祈る。






おまけは本来すぐにアップしなきゃ意味がないですよね凹
前のお話がキスで終わってたんだけど、そのキスの後の反応が書きたくて急遽作ってしまいました。単に殴られた一甲が書きたかっただけ、とも…。いくら鷹介でもキスくらい経験あるか?でも同性同士ってことでやっぱりパニくってしまったんでしょうね。


2003.11.14 朝比奈朋絵











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