おせっかい、ひとつ。


皆の身体に棲みついた宇宙蠍を取り除いた数日後。いつもの現場。
夜勤明けの一鍬と日勤の一甲が引継ぎをしているとバタバタと走りこんでくる輩がいた。気配を感じていた兄弟は顔を見合わせて溜息を吐く。
「兄者、あんな忍者失格なやつのどこがいいのだ」
「…俺にもわからん」
言葉とはうらはらに少し笑みらしきものを浮かべて答える。そんな穏やかな表情に一瞬目を疑うが、いい傾向だと一鍬は素直に喜ぶことにした。なにせあの堅物の兄が恋をしたのだ。「兄者も人間だったのだな」と安心したというのが本音で。相手は少々難があるが。
そうこうしているうちに足音の主は兄弟に気づき近寄ってきた。
「一甲、一鍬! 今日は2人とも揃ってんだな」
「いや、俺はもう上がる」
「あ、一鍬夜勤だったんだ、お疲れさん」
日頃、冷たく接されていただけに普通に会話をしてくれる一鍬の態度に鷹介は無邪気に喜ぶ。
満面の笑みで一鍬の肩を叩く鷹介に、一甲は胸の奥がチリ、と違和感が走る。微かに眉間に皺が寄るのを自覚した一甲は顔を背け小さく息を吐く。違和感の正体がわかっているからだ。
「一甲、どうかしたのか?」
心配げに覗き込んでくる鷹介に大丈夫だ、と一言告げて事務所へと踵を返す。
まだ胸のもやもやは取れていない。これ以上あの場にいたら何を言い出すかわからないと判断した一甲は鷹介に背を向けた。その一甲の背中を鷹介が切ない眼で見ていたことに気づかない。
(この2人、もどかしい…)
一甲と鷹介のやりとりを隣で見ていた一鍬の率直な気持ちである。鷹介を兄の相手として認めるかは別として、お互い想いあっていることに気づかず無駄に傷つけあっているのはイライラする。かといって自分が口出しするわけにはいかないのだ。
しょんぼり肩を落としている鷹介に保護欲をかられて、くしゃくしゃと髪を撫でポンと一つ叩いてやる。
「何だよ、子ども扱いすんな!」
睨みつけてくる視線は彼本来のもので。少し安堵してフッと笑みを漏らす。
(あ、こいつこんなふうに笑えるんだ)
「じゃお先」
手を振って欠伸をしながら事務所へ向かう一鍬に「お疲れーっ!」と声をかけて気合いを入れなおす。
(よっしゃ、今日もやるぞーっ! ちょっとでも一甲と仲良くなるんだ!!)
がんばれ、オレ!と鷹介は自分の顔をはたいて駆け出した。

事務所には仕事前の一服、とタバコをふかすオヤジ共に紛れて一甲が窓辺に立っていた。
「兄者」
視線だけ一鍬に寄越し、また逸らす。一鍬にしかわからないだろうが、不機嫌なのは明らかだ(他の人にはいつもどおりに見える)
「素直になるんじゃなかったのか?」
「……」
「兄者がそんな態度なら、俺がもらってもいいだろう?」
「なっ…!お前…っ!」
頭に血が上りぐいっと胸倉を掴み上げる。ざわついていた室内も静まり返る。
「あ、すんません。ただの兄弟ゲンカです」
にこやかに周りに手を振り、一甲の手を払う。
「そんな顔するくらいならさっさと伝えるんだな、兄者」
未だに睨みつけてくる兄の耳元で囁く。
「まったく手の焼ける…。じゃ、お先に」
「一鍬! 鷹介には何も言うなよ。…俺の問題だ」
「はいはい」
「返事は一回だ」
憮然とした顔の一甲に堪えきれず腹を抱えて笑い出した。


「一甲! もう始めるぞーっ!!」
「ああ」
「そだ。昼飯一緒に食おうな」
「…たまにはいいだろう」
「マジで?」
「ただし、午前中の仕事量で俺を抜いたら、だ」
「よっしゃーっ! 絶対だかんな!」
その午前中、馬車馬の如く仕事をこなす鷹介に皆があぜんとしていたのは想像に難くない。

そしてその昼休憩。頑張りすぎた鷹介は昼飯を食べる余力もなく寝こけていた。
「…お前はバカだ」
いつもよりゆっくりとしたペースで一甲は仕事していたのだ。そのことに鷹介は気づかなかったらしい。
建材を背に眠る鷹介の髪を静かに梳き、頬に一つキスを落とす。
鷹介の身体を自分に凭れかけさせ自分も目を閉じた。

穏やかな時間がいつまでも続けばいい、と一甲は願う。



 終 





相変わらずもどかしかったです、この2人。一瞬、鍬鷹に走ろうかと思ったほど(笑)


2003.10.20  朝比奈朋絵 











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