web拍手お礼SS 甲鷹編 【食卓編】 「一甲、はい醤油」 「あぁ」 「あ、袖のボタン取れかかってんじゃん。後で縫っとくな」 「お前に出来るのか?」 「ボタン付けくらいできるってば!」 「怒るな、冗談だ。では頼む」 「おぅ!あ、でもその間寒いよな」 「構わん。お前で暖を取らせてもらおう」 「?よくわかんねぇけど…」 「気にするな、大丈夫だ」 「よっしゃ!じゃさっさと食うぜ」 「ちゃんと噛めよ」 「わはっへるよ〜」 「…キレイに食えんのか…」 「〜?!舐めんなって!」 「だったら大人しく食うんだな」 「…ごちそうさま」 「俺も…もういいや」 「すまぬ…これ以上は…」 「…せやな、あたしも腹いっぱいや…」 「うむ…」 久しぶりに全員揃っての食事だったのだが…2人を除いた5人は早くも後悔していた。以前にも増して2人の世界は周りを無視している。 「誰かハバネロ買うてきぃや」 激甘には激辛を。 この日おぼろ研究所の胃薬は底をついた。 - - - - - - - - - - - - - - - 【冬編】 「一甲、これ見ろよ! カッコよくね?」 「あー、美味そう! 食べたいー!」 「入浴剤切れてんだよな。買ってっていいか?」 散歩に出かけるとあっちへふらふら、こっちへふらふら、落ち着きのない鷹介がいつも以上に騒がしい。 今日も寒さに頬を赤く染めて店先やショーウィンドウを覗いている。 「まだ買うのか?」 少々疲れが滲んでしまったのは許して欲しい。人ごみは基本的に苦手なのだ。 「…ごめんな。帰ろっか」 こういう時は常以上に敏い鷹介が表情を曇らせる。そんな顔をさせたいわけじゃない。 暖かい部屋でゆっくりさせてやりたいんだ。 俯いた鷹介の髪をかき混ぜて冷たく固まった手を握り、俺のポケットに一緒に突っ込んだ。 「一甲?!」 「少しは暖かいだろう?」 「うん!」 少しだけ歩調を緩めて。 少しだけ肩を寄せて。 こんな散歩なら…ゆっくりでもいいかもしれない。 - - - - - - - - - - - - - - - 【冬編・帰り道】 寒いのって苦手なんだけど。 嫌いじゃない…かな。 一甲はオレのこと「こども体温」って笑うけど、一甲だって十分あったかいぜ? 2人とも冷たい手だけど、こうやってれば気持ちがあったかくなる。 それにコイツってば、ときどきビックリするくらいオレがほしいものを察して与えてくれるんだ。 さっきだって…もう少し2人で歩いてたいなって思ったら、手ぇ繋いで、ゆっくり歩いてくれたし。 こういう時「大人だな」って思う。さりげないその仕草とかさ。今のオレじゃ天地がひっくり返ったってムリ。 だから今は素直に甘えちゃおう。 一甲を甘えさせられるだけの大きな男に成長するその日まで。 「あ、雪…」 暖冬の今年は雪なんて降らないかと思ったけど。 積もらないくらいの僅かな雪だけど。 一緒に見れてラッキーv はっくしょん! 「ほら、帰るぞ」 ちょっとだけ速められた歩調は寂しいけどさ。 「帰ったら新しい入浴剤入れて一緒に風呂入ろうな」 冬の些細なお楽しみ。 - - - - - - - - - - - - - - - 【仔犬編】 「ただいま」 仕事を終えて帰ってきた鷹介がこそこそっとドアを開け小さく帰宅を告げた。いつもなら一甲の気配を察した瞬間飛び込んでくるのに。 訝しんだ一甲がみそ汁の火を止めて玄関へ向かうが既に自室に入ろうとする後ろ姿しか見えず。 体調でも悪いのか、とノックをして声をかけた。 途端に中から慌てたような返答とバタバタ暴れる音がする。 「鷹介?どうかしたのか?」 「な、なんでもないっ…」 ワンッ 鷹介の声を遮るように上がったのは…犬の鳴き声に聞こえたのだが。 「ダメだって!」 窘めるような小声も忍びの聴力ではしっかり捉らえている。 「開けるぞ」 鷹介がドアノブを押さえる前に素早く開け放ち入室すれば、案の定小さな茶色い物体。茶色のソレはいきなり入ってきた巨体に臆することなく、パタパタと尻尾を振り足の甲に前脚をちょこんと乗せて見上げた。その後ろでは「あっちゃ〜」と鷹介が額を押さえている。 「…鷹介」 これは?と尋ねようとしてもう一度見下ろした一甲にキラキラ輝く純真な瞳で見上げるわんこ。しばし時が止まる。 それに同調するように鷹介も「ダメ?」と小首を傾げて期待に満ちた眼を一甲に向けた。 「……責任持って育てろよ」 「やったーッv よかったなぁ、お前♪」 仔犬を抱き上げ頬擦りする鷹介。一甲などもう眼中にない。 「キレイにしてやるな♪」 そう言うが早いか、仔犬と共に風呂に入ってしまった。 後を追って覗こうとすれば「狭いから出てけ」と追い出される始末。 一人取り残される一甲の背中に哀愁が漂う。 まだおかえりのキスもしていないし、一緒に風呂に入る野望も打ち砕かれた。 この分では今夜鷹介の同衾相手はあの仔犬だろう。 つぶらな瞳と愛くるしい仕種に負けた自分を早くも後悔する一甲だった。 - - - - - - - - - - - - - - - 【年末編】 人には向き不向きがあるってわかってるかよ。 ブツブツ文句を言いながらもせっせと手を動かしテレビの裏のホコリを取っていく。たくさんの配線に混乱しながら一本ずつ拭いて… 「あー、イライラするー! なんでこんなに線が多いんだよー!!」 「お前のモノばっかだろう」 台所から冷静なツッコミが入った。 ビデオ2台にゲーム機。たしかに全部オレのモノだけどさ。細かい作業キライなんだってば。窓拭きなら得意なのに昨日のうちに一甲が全部やっちゃったんだよな。ちぇっ。 掃除に飽きたオレはザザザッと大雑把に拭いてテレビラックを元の位置に戻して。ポイポイと掃除道具を放り出した。 「いーっこぉ」 台所にいる一甲にかまって攻撃。背中から抱きついて手元を覗き込めば… 「あ、昆布巻き!」 「たいしたものは作れんが、これくらいは用意したいからな」 研究所から借りてきたらしい重箱には田作りと黒豆、伊達巻に海老がきれいに鎮座している。相変わらずマメな男だな、と感心すると同時に何もできない自分が悔しい。お節なんて作ったことないよ、普段の食事だっていっぱいいっぱいなのに。 肩口に顎を預けてちょっと俯くと口元に蒲鉾のかけらを押し付けられた。 「腹減ったのか? つまみ食いはダメだぞ」 そう言いながらも蒲鉾を口に押し込む一甲は優しく見下ろしていて。 一甲の指ごと口に含んで甘噛みしてやる。 …気にするな、ってことか… ごくん、と飲み込んで、ちゅぽん、音を立てて一甲の指から唇を離し。 「お雑煮はオレが作るからな!」 高らかに宣言するとくしゃりと髪を撫でられた。 「…起きられたら頼もう」 意味ありげな笑みと言葉。 それを実感したのは…元旦の朝だった。 結局誰が作ったかなんて…言わなくてもわかるよな。あーぁ。 - - - - - - - - - - - - - - - 【新年編・高校生&保健医ver.】 「いーっこぉ!まだ寝てんのかよ!」 可愛い恋人がやってきたというのに不覚にも保健医はまだ夢の中。 学校関連の仕事は思いの外多忙を極め、家の大掃除まで気を回す余裕がなかった。しかし鷹介が来る前にある程度ことを済ませておかないと叱られるし、せっかくの逢瀬を掃除に潰されたくなくて、寝る間を惜しんで大掃除した結果がコレで…。 「幸せそうな顔で寝やがって」 鷹介も口では文句を言いながらもその無防備な寝顔にちょっとした幸せを感じている。滅多に見れないその姿が嬉しい反面、疲れていることを物語っていて鷹介も無理やり起こすのを止めた。 「もうちょっとだけ、な」 わんこ達が来るまであと3時間。1時間くらい大丈夫だよな、と鷹介はダッフルコート脱いでもぞもぞと布団に潜り込み、背中に身体を寄せ目を閉じる。 朝日が柔らかく差し込む部屋で、暖かく穏やかな時間を鷹介は満喫していた。 その後背中の温もりに気がついた保健医が何もしないわけもなく…鷹介は約束ギリギリまで全身をくまなく愛されることとなった。 - - - - - - - - - - - - - - - 【新年編・甲鷹ver.】 「あけましておめでと」 隣で眠る恋人の寝顔を眺めて囁く。 忍を生業とする自分たち、特に彼はその中でも格段に眠りが浅い。鷹介が一緒に住むようになってからだって寝顔は拝んだことはなくて。いつだって一甲は鷹介よりも後に眠り、先に起きてしまう。それが悔しくて眠らないように頑張ろうとしても、やや強引に意図的に身体的疲労と精神的充足を与えて眠らせてしまう。 だからこそこの光景はものすごく驚いた。 と同時に嬉しくも思う。自分に気を許していてくれるんだ、と。 こんなチャンスそうそうないよな。 鷹介は相手の胸元に抱き込まれたまま、じっくりと観察を始めた。 男らしいその造形に女顔だと言われる鷹介はちょっと嫉妬する。 「寝ててもカッコイイなんてずりぃ」 「そんな褒められると恥ずかしいな」 知らぬうちに思考が口をついていたらしい。鷹介の言葉に目を閉じたまま答えて、ぎゅっと力を込める。 「ギャッ!お、お前、狸寝入りなんて卑怯だぞ!」 もがく鷹介の耳は恥ずかしさからか真っ赤で熱くほてっていて。しばし頬でその熱を楽しむ。 「あけましておめでとう。今年も共にいてくれ」 羞恥に唸る鷹介の身体を少しだけ離し、真摯な顔つきで告げると一瞬目を見開き、そして花が綻ぶように柔らかく微笑んだ。 「今年も来年も再来年もずっとずーっと一緒にいてやるよ」 本年もよろしくお願い致します。 終
冬に書いた甲鷹を集めてみました。…たぶんこれで全部だと思いますが。データを紛失してるかもしれないので自信ないや; 2005.04.13 朝比奈朋絵
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