カラフルマリッジ - ホワイトショコラ - 一生のうちで一番華やかで幸せな時期はいつなのだろう。 人によっては学生時代であったり社会人になってからという意見もあるだろうが、女性にとっては結婚という人生の一大イベントにそれを重ねるという。 まぁ、女性でなくとも当て嵌まる人達がいるようで…。 「…終わったな」 「……うん」 手を振り続ける七海・吼太・一鍬を見送った後、コテンと頭を預ける鷹介に一甲が静かに髪に口づける。 いつもの騒がしい雰囲気がなりを潜めれば、整った、芯の強い横顔が月光に浮かび上がり、一甲の胸に甘い痛みを走らせた。 「部屋に戻るか?」 「うん」 頬に触れるか触れないかのキスを落とし、行くぞ、と手を握って階段を上り始める。途中鷹介の指がうごめき、いわゆる「恋人つなぎ」の形を取り、照れ笑いを浮かべた。 「一度やってみたかったんだ、お前と」 握り合わせた手を軽く揺する鷹介に愛しさが込み上げ、衝動が抑え切れない。思わず誰もいない階段の踊り場で抱き締めた。鷹介も驚きながらも逆らうことなく身を委ね言葉を紡ぐ。 「好きだよ、一甲」 幼い囁きに引き締まった一甲の顔がだらしなく緩む。 「あぁ、俺もだ」 「今日くらいはちゃんと言ってくれたっていいだろ」 「……愛してる。今までもこれからも、お前だけを」 「〜〜〜っ!お前、極端すぎ!…恥ずかしいヤツ…」 「本心だから仕方ないだろう」 額をくっつけ、鼻先を擦り合わせながら言えばさらに鷹介の頬の温度が上がった。「う〜〜」と唸る声は照れ隠し以外なにものでもなくて。ふんわり抱きしめ直した。 コツン、階下から足音が聞こえ、名残惜し気に身体を離して部屋へと向かう。手は繋いだままで。 後はやるから新婚さんは座ってて、と七海と吼太が一鍬を引きずって台所やリビングの片付けをしてくれたため、数時間前のドンチャン騒ぎがウソのようにキレイになっていた。 どっかりとソファに身体を深く埋め、一甲に凭れる。 + + + + + + + 仲間が二人のために開いてくれた結婚式。 貸衣裳のため、一甲のえんび服の袖とズボン丈が少し短かったのもご愛嬌。真っ白のタキシードに七海手製のブーケを持たされた鷹介ははにかみながら一甲を眺めていた。 「ごめんね、一甲。サイズ合わなかったみたい。手脚長すぎなんだもん」 「たしかに規格外だな、一甲は」 「兄者を愚弄するな!」 「褒めてるんだってば、一鍬。も〜ぉブラコンも今日までにしなさいよ」 「ほら、鷹介も見惚れてないでなんか言えよ」 背中を押して鷹介を一甲の前に押し出して。 二人を残して部屋を出た。 「ホント短いのな」 袖口を引っ張りながら笑う鷹介に負けじと口元を歪め応戦する。 「なんだ、ドレスじゃないのか?」 「冗談!お前なら紋付き袴のがよかったのかな。あ、でも一回見てるしこっちのが新鮮かも」 「あぁ、ニンジャミセンの時か」 懐かしいな、と回顧する二人。ふと思い出したように唇を尖らせて上目遣いに睨む鷹介だが、手に持つ花の魔力か腐った一甲の目にはおねだりにしか映らない。ふらふら〜と顔が引き寄せられた。が、 「ズルイって思ったもん、あん時」 そんな気のない鷹介の無情な一言。仕方ない、チャンスはたくさんある、と己を慰め一甲は気を取り直して尋ねる。 「何がズルイ?」 「…カッコイイなって…」 「ん?聞こえんぞ」 「っ!バカッ!もぉ知らねぇ!」 「すまんすまん。…ホントにお前は可愛いな」 そっと抱き寄せ髪に頬を埋める。鷹介も逞しい背中に腕を回し、きゅうぅとしがみつき小さく小さく悪態を漏らした。 「可愛いって言うな、バァカ」 ジャカンジャとの戦いが終わった直後に一甲はなけなしの貯えをはたいて指輪と新居を用意していた。それを幸か不幸か七海にバレてしまい、この身内だけのパーティーを秘密裏に計画されていたのだ。 実際に式を挙げられない二人にささやかなプレゼント、といったところで。 指輪の交換に誓いのキス(20秒に渡るディープキス)といった手順を踏み、あとは飲めや歌えやの大宴会。 館長はまるで花嫁の父のように一甲にあれこれと注文をつけ管を巻いてはおぼろに嗜められていたし、おぼろはおぼろで鷹介に新婚初夜のアドバイス(という名のからかい)をして真っ赤になった鷹介で遊んでいた。 七海からは「泣かせたら海に沈めてあげるから」と笑顔で脅され、吼太は「舞獅子のまま一人に向かって869号やったらどんなだろう」とこれまた不穏な問い掛けをされた。もちろん満面の笑みで。 彼らが鷹介をどれだけ慈しんでいたのか、一甲は改めて思い知らされた。 鷹介も反対に一鍬から「兄者の好み、霞家の伝統」のあれやこれやを聞かされていた。一鍬唯一の肉親を奪うことになってしまった鷹介は神妙な顔付きでそれに聴き入っていたり。それはもう大変な騒ぎだった。 + + + + + + + ガランとした室内。握ったままの手には細くシンプルな指輪が静かに光を放っている。 「指輪…ありがとな」 「いや、礼を言うのはこっちだ。受け取ってくれてありがとう」 どちらからともなく寄せられる唇。最初は触れるだけだった口づけが徐々に深くなり、互いの身体に火を灯した。 「んふ…ん、…まっ…て、いっこぉ」 「待てん」 「シャワー…浴びたい…」 甘い肌を欲しがる唇は鷹介の首筋を這い回り噛み付く。 「お願いだ…いっこ…ぉ」 身体を重ねるのは初めてではないが、やっぱり特別な日はちゃんとしたい。 そんな願いが届いたのか、一甲は鼻先、頬、額と軽く唇を落とすと「あまり焦らすなよ」と鷹介を解放した。 「待っててくれよな」 バードキスで返し浴室へと向かう。 しっかり泡立てたスポンジを身体に滑らせて。特に一甲がよく触れるポイントと受け入れる場所は念入りに。 パジャマを羽織って浴室を出ると入れ代わりに一甲がシャワーを浴びた。こちらも今から活躍する息子を磨き上げ、バッチリ準備万端。 鼻息荒く寝室へ向かうとベッドの上にぺたんと座り込む鷹介がいた。 黒いブカブカのパジャマは一甲のもの。上着だけを羽織っていて、裾から伸びる脚の上気した薄紅とパジャマの黒のコントラストが眩しい。 「いっこ…ぅわッ、んん〜ッ!」 はんなり微笑んだ鷹介に飛び掛かりピンクに色付く唇に噛りついた。 「んっ…ふぁッ……ぷはっ…サカリ、すぎっ」 「すまん…もう止まらん…」 「…いいぜ、オレも…欲し…ぃ」 その一言で俄然勢いを増した一甲がスズメが囀り始める時間まで鷹介を離さなかったのは想像に難くなくて。 「鷹介、メシ出来たぞ」 「立てない」 シーツの塊に向かって声をかけるが、返ってくるのは低く素っ気ない言葉だけ。 「こっちに持ってくるから」 「痛くて座れない」 「…………すまん」 「限度ってもんがあるだろ」 「反省してる」 「どうだか」 「以後気をつける」 「…ほどほどならいいけどさ。…気持ち、イイから」 「っ!鷹介ぇッ!」 「反省してねぇじゃん!」 ダイブしてくる旦那サマに頭突きをかましつつ抵抗しない鷹介も、結局は一甲に甘え倒したいのかもしれない。 「ご飯、冷めちゃうだろ」 「今はお前が先だ」 「腹へってんのにぃ…ぁ、うん…」 「ココにたっぷり食わせてやる。今日は特別だからな」 「ひゃぁ…んッ、今日?特…別?」 「記念すべき新婚1日目だろ?」 「…そうだな」 ふふ、と笑ってやんわり唇を重ねる。啄みくすぐり甘噛みして、あっという間に快楽の海へと身を委ねるのだった。 七海あたりが聞いたら「いつもと変わらないじゃない!」と水流波をお見舞いしながらツッコミそうな内容の朝を、彼らはどれだけ繰り返していくのだろう。 朝の運動(2回目)が終わったあとようやく朝食にありつけた鷹介が「明日はオレが作るから!」と拳を握って宣言した。 …朝食云々で一騒動起きるのだが、それはまた別の話。 終
いきなり降って沸いた新婚シリーズ。頭が疲れてると無駄に甘いのが書きたくなるようです。と言ってもこの話は随分前にケイタイでちょこちょこっとネタだけ考えて数名の方に送りつけてたものでした。←迷惑; 気が向いたら、というか疲れたらこのシリーズが増えていきます。なので新作がアップされたら「あぁ、朝比奈は疲れてるんだな」と笑ってやってください。 ※この作品は『S.H.R』様に寄稿したものです。 2004.10.20 朝比奈朋絵
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