しゃくしゃく……。
 ざぁ……。
 しゃくしゃくしゃく……。
 さぁ……ころころ…ごろ……。


 しろくまくん雨宿り



「雷、遠くなってきたな……」
 ガラス越しに見やる空は――夏の持つイメージと反してひどく暗いが、それが夕立と称される一過性の雷雨であると解するならば、充分に夏らしいと言えなくもないかもしれない。
「あぁ、直に止む」
 先程まで、外が見えないほどにガラス窓を叩き続けていた水滴も――まだ雨足が線を描いて視認できるほどではあるものの、いくらか勢いを弱め――この様子だと、ものの10分ほどで、それこそ夏そのものの青空が雲を払って覗くことだろう。
「花火、中止になったりしないよな……?」
 肯定疑問に近い――それは、独り言だったのかもしれないが――夕立くらいは予定のうちだろう……応えやる口元につい浮かぶのは――しゃくしゃく…空の機嫌を伺いながらも休むことなく口に運ばれ続ける銀色のスプーンに誘われる笑み。
 しゃくしゃくしゃく……。
 降り出した雨に追われて――逃げ込んだ喫茶店。同じような避難客で賑わう店内――辛うじてふたつ並んで空いていた窓向きのカウンターに腰を落ち着けて、らっき〜……夏仕様のメニューに目を輝かせて鷹介の選択したのは――。
 しろくま?……手元を見やるに、氷のメニューらしいが――ついぞ聞いたことのない名称に、小さく疑問符を差し向ければ――見たらわかるって……楽しげに鼻の頭をこすってみせる鷹介の前、程無く運ばれてきたのは――小豆とサクランボ、缶詰みかんとパイナップルでトッピングされた、練乳がけと思しき山盛りのかき氷で……。
 ???……現物を見てもまだ理解が及ばないのだか?――それがなぜ、しろくまなのだ?……再び疑問符を重ねれば、ちょいちょい…指先で鷹介の示すのは――サクランボの鎮座まします氷の頭頂部。上から覗けということらしい――解して、ひょい…背を伸ばして鷹介の手の甲の上から覗きやる。
 ほぉ……思わずもらした感嘆は、なるほど……純粋にその名前の由来に感心をおぼえたのが半分、それを好む鷹介の稚さに覚えず口元が緩んでしまったのが半分。
 山盛りに盛られた白い氷――。
 上から覗けば独特の甘い香りがわかるほどに――たっぷりの練乳におおわれた頂上に、赤いサクランボ。サクランボと三角形を描くように、一対の大粒の小豆。小豆の反対側には、一切れのパイナップル。そして、器の縁のほど近く――小豆の延長線上にもなろうか?――オレンジ色の缶詰みかんが、これも一対。
 サクランボの鼻、小豆の瞳、パイナップルの口元に、みかんの耳――そして、雪のように白い顔。
 それは子供の悪戯を思わせる――器の中の白熊の顔。
 えへへ……ひとしきり眺めてのけたあと、しゃく…さっそくスプーンでもってひとすくい――くふ…甘さと冷たさに満足の笑みを浮かべる鷹介には、くしゃり…幼い仕草に誘われるままに頭をなでやった。


 しゃくしゃく……。
 しゃくしゃくしゃく……。
「ん――」
「あぁ……」
 時おり、差し出されるスプーンの先を啄ばんで……。
 しゃくしゃくしゃく……。
 しゃくしゃく……。


「まだ、止まねぇのかな……?」
 からん…とうとう空になった器にスプーンをおいて――ごちそうさま……小さく手を合わせてみせつつ――ん〜……窓越し、あともう一降りとばかりの空模様をうかがう横顔が不安げに思えるのは――先程ぼやいた花火を今だ心配しているわけではないのだろう。さわり…夏らしく露出した腕を自ら手のひらでかばう仕草に得心すると、仕方のないヤツだ……苦笑とともに縮込めやられる肩を引き寄せた。
「わりぃ……。さすがに、冷えちゃってさ――」
 あれだけ山盛りの氷を完食したのだ――身体が冷えてこないわけがない。加えて、昨今の建物内は、ただでさえ効きすぎるほどの空調がしつらえられていれば――いくら若くて健康な身体を有しているとしても、ティーシャツ1枚で寒くなってこないはずもなかろう。
 間近にする肌は、気の毒なほどに総毛だって思えて――あったけ〜……おどけてみせながらしがみついてくる鷹介には、着ていたジャケットを着せかけやる。
 さんきゅ……律儀に感謝を述べてよこす笑みは、ぽむぽむ…わずか青ざめて見える額をなでやってから――ぎゅっ…強く強く抱き締めた。
「雨が止むまで、こうしていろ――」


「んじゃ、も少し止まなくっていいや……」
 ぽつり…腕の中でもらされたつぶやき――。
 そして、くすり…こぼれたのは何度目かの笑み。


 そうだな――それも悪くない……。


 からり…空の器で銀色のスプーンがゆれた。




Ende




 『最終弁当』HARUKA様より頂いてきましたv

夕立・花火・しろくま。夏ならではのアイテムがさりげなく詰まってて、改めて日本の夏を感じさせてもらいました。
実は…しろくまはコンビニやスーパー売りのものしかみたことなかったんです。
なるほど、しろくまってこういうことなのね、と初めて知りました。うぅん見てみたい。でもないなぁ、しろくま。
どこであれ2人の世界をしっかり作り上げる一甲に脱帽です。(さりげなく「あーんv」もしてる…)鷹介もちゃんと甘えちゃうのね。ってそこ、店内じゃ…。眼福眼福(笑)

HARUKA様、ステキな夏小説ありがとうございました♪  

 





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